鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「友達だった2人が付き合って0日で結婚を決めた話」(既刊3巻)

  • えむふじん「友達だった2人が付き合って0日で結婚を決めた話」1~3

1巻は2024年1月8日刊、2巻は2024年1月19日刊、3巻は2024年2月23日刊。もともとはブログで無料公開されていた作品。1巻は187ページ、2巻は59ページ、3巻は63ページ。

えむふじんの子育て・日常生活を描いたブログは大人気で、自分もよく読んでいる。三人の子どものキャラクターがそれぞれきちんと立っている上に、オチの付け方がうまい。その上よほどのことがない限り、ほぼ毎日更新されている。人気が出るのも頷ける。

本作は、作者が夫である「えむもとえむし」と知り合ってから結婚を決めるまでの経緯をまとめたもので、過去作の中でも屈指の人気シリーズだったと記憶している。kindle本になったと知ったので改めて読み返してみたが、とても面白い。

話は終わっていないから、まだ続編が出る、のだと思う。期待して待とう。



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「戦国小町苦労譚」10

  • 原作・夾竹桃、平沢下戸、作画・沢田一「戦国小町苦労譚 農耕戯画」10(アース・スターコミックス)

2021年12月10日刊。「デジタル版コミックアース☆スター」2021年6月~10月掲載。

静子が持ち込んだ武器は、①カプサイシン(辛み成分)爆弾で、目や鼻、口などの粘膜につけば耐え難い苦痛を与え、②ロケット花火で、当時の人には聞き慣れない炸裂音で攪乱し、③通常の矢、以上の波状攻撃で浅井勢を集団ヒステリー状態に陥らせた。矢尻にはカビや雑菌を付着させ、軽い傷でも致命傷にさせるもの。

人を殺すのにきれいもきたないもないかも知れないが、静子の戦法は正直なところ、かなりダーティーなものだ。だが、勝たなければ意味がない。ある意味、静子は腹を決めたのだろう。

姉川の合戦では織田優位に進み、浅井・朝倉を退けたが、織田軍の被害も大きかった。さて、次は大好き、宇佐山城の戦いである。重要な一戦の割に、意外と省かれがち。大河ドラマ麒麟がくる」でも描かれなかった。史実では浅井朝倉連合軍に延暦寺の僧兵を合わせて約3万、守る森可成は約1000、これで森は討ち死にする。が、それを食い止めんと、静子勢7500がここに加わった。

戦いが始まる。これまで静子は、武器を制作したり、助言をしたり、その結果大勢の人を死に追い込んだかも知れないが、自らの手で人を殺したことはなかった。が、この戦では直接何人もの敵の武将を倒していく。これも、これまでから変ったこと。静子勢は大軍を前に優位に進めていたが、大軍ゆえに簡単には片が付かない。ついに敵が盛り返し、静子勢が劣勢に追い込まれる。それを助けるために森勢が加勢するが、森は打ち取られてしまう。やはり歴史は変わらないのか……



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「戦国小町苦労譚」9

  • 原作・夾竹桃、平沢下戸、作画・沢田一「戦国小町苦労譚 農耕戯画」9(アース・スターコミックス)

2021年7月12日刊。「デジタル版コミックアース☆スター」2021年1月~5月掲載。

これまでも静子の行動で歴史は変わってしまっていたのだろうが、目に見えるものといえば史実では二日かかったはずの戦が一日で終わった程度の違いで、少なくとも静子の理解・観測では大きな変化は起きていなかった。

本巻では大きな変化が起き始める。信長の朝倉攻めにおいて浅井の裏切りを進言し、それが聞き入れられた。そこで信長は朝倉侵攻の前に長政にお伺いを立て(その過程で久政が反信長の首謀であることがあぶり出され)、朝倉攻めはいったん中止される(その結果「金ヶ崎の引き口」は起きない)。

その後久政は謀反を起こして長政を追い詰めるが、事態に気付いた静子が長政を庇護し、お市とその子も救出、久政軍は壊滅状態となった。長政は妻子とともに信長のもとに身を寄せることとなった……

まあ、細部が変わっただけで、浅井朝倉と織田陣営の対立という構図が変わったわけではないが、それでも、これまでよりは大きく変化が起き始めた。これは静子にとっての正義だが、このことが今後どのような影響を与えることになるのか。

姉川の合戦。史実では織田陣営も大きな被害を被るが、静子は織田方の被害を最小限に抑えたいと考えた。そして小型ロケットのような武器を持ち込むが……?



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「投手論」

2013年4月1日刊。

少し前に「プロ野球 vs メジャーリーグ 戦いの作法」という本を読んだが、その前にさらに本を書いていた。注文して届いたのでさっそく読む。

自身のエピソードだけでなく、チームメイトも含めた興味深いエピソードにまじって、投手にとって一番大事なのはコンディションを整えること、といった信念や、日本では~のように教わるがアメリカでは~のように言われる、これはアメリカの方が正しい、といったピッチング理論に関するあれこれ。

とても興味深い本である。

メジャーに行くためにFA宣言をした時、日本のチームからも誘われた。条件が一番よかったのがジャイアンツで、4年12億と言う提示だったが、メジャーを選んだエピソードは重要。結局メッツに入団したが条件は20万ドル(2400万円)。本人も「ショックだった」とは書いているが、それでもメジャーを選んだわけだ(翌年は二年500万ドルの契約になったそうだから、ジャイアンツと同じにはなった)。

大谷翔平が25歳になる前にMLBへ行き、日本で2億7000万だった年俸が、2018年は54.5万ドル(約6000万円)、2019年は65万ドル(約7000万円)と低く抑えられたことに、25歳を過ぎてから行けばもっと高額の契約ができたのに、と批判する人が少なからずいたが、なんでそんなもののために二年待たないといけないの? と思ったものだったが、吉井も「お金がすべて」ではなかった。こういう点がむしろプロらしいと思う。

プロ野球 vs メジャーリーグ 戦いの作法」と重複するエピソードが多い。まあ、一年で二冊、同傾向の本を書いたのだから致し方ない。二冊出す必要あった?

「戦国小町苦労譚」8

  • 原作・夾竹桃、平沢下戸、作画・沢田一「戦国小町苦労譚 農耕戯画」8(アース・スターコミックス)

2021年2月12日刊。「デジタル版コミックアース☆スター」2020年8月~12月掲載。

本巻で静子は獅子奮迅の大活躍。

  • 水車型洗濯機
  • 旋盤
  • シュリヒテン剥皮機(植物から繊維を分離する機械、従来の数十倍の速さで麻糸の生産が可能に)
  • ケプラー式望遠鏡の開発にも目途
  • 磁器
  • 清酒

などを続々と開発。また近衛前久の協力を得て正親町天皇に数々の贈り物をし、「従四位上」の位を賜る。料理では、まずいと言われたじゃがいもを食用として提示、生醤油の開発とともに鶏肉じゃがという料理も発明(?)。そのほかパンを焼き、プリンを作る。

他の転生組は

  • みつおは琉球からアグー豚を持ち帰って来た。ついでに島津貴久の娘を妻として連れて帰った
  • 足満は、織田の北畠戦で、敵の領土で田畑の土壌を壊して飢饉を起こさせ、また疫病を流行・拡大させ、戦力と士気を削ぐなど暗躍

ひとつひとつは、やろうと思えばできることかも知れないが、理解者(平成の知識・経験を持っている人)もいない中、ひとつ成功させるだけでも膨大な時間と手間が必要であると思われ、同時にというのは非現実的を通り過ぎている。現代のわれわれが普通と思っていることは、当時は普通ではないんですよ、現代の技術があれば当時で無双できますよ、ということを示している(に過ぎない)のだろう。その分、静子にはあまり人間味が感じられない。

それに対してみつおと足満の方は現実的だ。が、本巻ではとの活躍の場は少なかった。

静子の存在は武田信玄上杉謙信北条氏康らの耳にも入り、狙われるようになる。そればかりか、静子の重用を面白く思わないものは織田陣営にもいた。木下秀長もその一人……



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「戦国小町苦労譚」7

  • 原作・夾竹桃、平沢下戸、作画・沢田一「戦国小町苦労譚 農耕戯画」7(アース・スターコミックス)

2020年9月12日刊。「デジタル版コミックアース☆スター」2020年3月~7月掲載。

本巻での静子の活躍は、

  1. 京料理が口に合わない信長に味の濃い田舎料理を出して好評を得る
  2. ルイス・フロイトキリスト教の布教許可を進言
  3. 近衛前久(さきひさ)を織田陣営に引き込む
  4. 脚気の人を治す

1は史実かどうかは知らないが有名なエピソード。料理漫画にそのパロディが描かれたこともある。ここでは信長が「料理人の腕がいいのはわかっている。静子は食べる人の立場に立った料理だ」と喝破したところが読ませた。

2は、フロイトの前で金平糖と有平糖の解説をしたのはよくなかったのでは。信長に教えるならこっそり教えればよかった。人前では驚いてみせるべきだった。

3は、信長の命ではなく自身の判断で行なったことが画期的。農作物の育成や機器の発明(?)においては平成時代の知識・経験をもとにどんどん積極的にコトを行なっていたが、政治的な面で動くのは初めてのはず。人を動かすのは簡単ではない。まして若い女性であればなおさら。歴史の知識から「こうした方がいい」とは判断できても、行動にはなかなか移せないもの。実に大胆だが、物語が大きく動いて来た。

近衛前久は「麒麟がくる」では本郷奏多が演じた破天荒貴族。

4の脚気は、ちょうど朝ドラ「ブギウギ」でもタイ子がかかって死にかけた事件とシンクロする。薬うんぬんより正しく栄養を取ることで劇的に改善するようだ。

さて、信長の再開発構想により静子の村は解体された。これがどういう意味を持つのか? 

足満の正体が明らかに。タイムスリッパーだったのでは、という予想は当たったが、なんと、足利義輝だった。なるほど、剣の達人であったのも頷ける。例の政変で死んだと思われていたが、死ぬ直前に静子の世界に記憶喪失になって飛ばされたようだ。その足満を助けたのが静子であり、そのため足満は静子に対し恩義を感じ、一命を賭して尽くすつもりでいる。静子が織田家の発展を願うのなら、自分も手を貸すというわけだ。

足満はただものではないと感じ、喪失した記憶を取り戻させたのが濃姫というのも興味深い。濃姫が足満こと義輝を信長に紹介したところで終わり。

「ほかにもタイムスリッパーがいた」「そのタイムスリッパー同士が出会って何かが起きる」というのは「信長協奏曲」でもそうだったが、足利義輝とは、一番の大物なのではないか。これから物語はどう動くのだろうか?

「窓ぎわのトットちゃん」

単行本は1981年3月6日刊。文庫本は1984年4月15日刊。新組版は2015年8月12日刊。

いわずと知れたベストセラー本。国内900万部世界2500万部を売り、ギネスにも記録されているとか。

私も(あとがきで揶揄されているように)薄っぺらいタレント本の類かと長い間見向きもしなかったのだが、5~6年前にたまたま図書館で見かけて借りて読んでみてびっくりした。こんな内容だとは思っていなかったからだ。

先日書店で本書を見かけた。昨年、続編が刊行されたことや劇場アニメが公開されたことで再び話題になり、増刷がかかったのかも知れない。字が大きくて読みやすかったため購入して再読した。

本書はノンフィクションということだが、すぐれた児童文学になっているところがミソである。何事にも強い好奇心を持つ主人公の少女が、友だちや先生たちと様々な日常の冒険をする話なのだ。いわば、「長くつしたのピッピ」「赤毛のアン」の日本版だ。著者が「私は」「私が」と書かず、「トットちゃんは」と書いたこと、具体的で生き生きとした描写が効いている。教育書の側面もあり、親や教師で座右の書としている人もいるようだが、本質は「冒険譚」なのだろうと思う。

クラスメートの死とか、ロッキーとの別れとか、悲しいこともあるけれど、概ね楽しく充実した日々を送っていた主人公らの生活も、和終話で一転する。東京空襲が始まり、トモエは灰になってしまう。もっとも、その時主人公は既に疎開のため学校をやめていたが……

本当に、戦争はいろいろなものを奪っていく。戦後の復興で元に戻ったものもあるし、よりよくなったものも多いのだろうが、戻らなかったものもあるのだ。本書のもうひとつの本質は「戦争批判」だろう。

あとがきで著者は、「本が売れたのはいわさきちひろさんの絵のおかげ」と述べている。もちろん著者の文章が第一の理由なのは論を俟たないが、ちひろの絵も効果を上げているのは間違いないところ。

続編は文庫化されたら購入することにしよう。



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