鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

怪作か傑作か「生活」

福満しげゆき初の長編漫画。「僕の小規模な失敗」「僕の小規模な生活」「うちの妻ってどうでしょう?」と読んできて、福満はエッセイ漫画家であってストーリー漫画(創作)は描けない、あるいは苦手なのだと思い込んでいたが、もしかしたら創作ストーリーこそこの作家の本来の能力を発揮できる場なのかも知れないと思った。

冒頭の、その町の「生活」の断片を切り取った描写がもう異様である。絵が必ずしもうまいとはいえないのに、違和感がない。シュールな状況を過不足なく描き切っている。

電車内での不正(?)を正そうとする正義マンが登場するが、その後パトカーのタイヤをパンクさせようとしたり女性の下着を盗もうとしたり、およそ正義感とはかけ離れた行動を取る。それを見ていた「僕」は、どうせならわいせつ行為を働いた男に天誅を食らわせようと持ち掛けるが……

というのが発端で、話が転がっていくが、正義の名のもとに振るう暴力の快感、エスカレートしていく様子、仲間が増えていく、だんだんと行き詰っていく、仲間同士の協調から分裂・対立へ、時間の経過とともに状況も変化し、……といった様々な話が詰め込まれていく。荒唐無稽のようでいて、展開のひとつひとつが妙な説得力がある。つまり、あり得そうでもあるのだ。このあたりが実にうまい。

全一巻(分冊版だと全7冊)。堪能できる。

追記(2020/8/17)

僕の小規模な生活」2によれば、青林工藝舎版の単行本(第9話まで所収)には、デビュー作(「娘味」だろうか?)が掲載されているという。読みたい。青林工藝舎版も復刻してほしい。



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