鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「となりの関くん」1

「まどからまどかちゃん」の単行本を買ったのはモーニングでの連載が終わったあとだが、Amazonのレビューを見てみると、「となりの関くん」に似ているとか、「となりの関くん」の劣化版だとかと何人もの人が書いている。「となりの関くん」という作品も森繁拓真という作家も初めて聞く名前だが、先行する作品があったようなのだ。

自分は面白い漫画が読みたいだけで漫画史を研究しているわけではないのだが、ちょっと調べてみると、アニメ化もドラマ化もされたかなりの人気作のようであり、また、森繁拓真はかの東村アキコ女史の実弟ということを知り、がぜん、興味がわいた。というわけで一巻を入手。

関くんは、授業中、授業はそっちのけでいわゆる「内職」に熱中している。が、その内容は壮大なもので、必要な道具や部材を持参するのも片付けるのも不可能としか思えないものが多く、また教師が気づかないのも不思議である。一方、隣席の横井さんは関くんのしていることが気になって気になって仕方がない。そうして「授業を真面目に受けていない」として横井さんが先生から怒られる羽目になる、という話。

なんらかのシュールな行動をする人と、それを眺める人の二人で成立しているシチュエーションドラマ、という枠で考えれば、確かに共通しているとはいえる。というより、「まどからまどかちゃん」は「となりの関くん」のフォロワー(流れを汲む作品)のひとつであり、こうした世界の枠を広げてくれた作品であると思う。

新しいスタイルの作品が登場しても、あとに続く作品がないと単発で終わってしまう。料理漫画の世界では、その昔「包丁人味平」という作品がスマッシュヒットしたが、フォロワーが生まれずそれだけで終わった。が、後年「美味しんぼ」が登場して注目を集めると、すぐに「ザ・シェフ」という作品が生まれ、その後も数多くの料理漫画が登場して作品世界や描写手法が広がり、今ではほとんどすべての漫画雑誌に必ず一作は料理漫画があるくらい、ジャンルとして定着した。

金貸しを主人公にした青木雄二の「ナニワ金融道」が登場したときは驚いたが、これもすぐに「ミナミの帝王」というフォロワーが生まれ、こちらは今でも連載が続く人気作になった。この分野も様々なフォロワーが生まれ、「闇金ウシジマくん」や「新宿スワン」はその延長線上にあるといえる。

もちろん、フォロワーの中には先行作品をパクっただけの志の低いものもある(「あぶさん」に対する「どぐされ球団」はそうだな)。しかし、基本的にはフォロワーが次々に生まれることで、そのジャンルの可能性が広がり、表現が洗練されていく。つまり、フォロワーである、ということは、決して悪いことではないのだ。作品のよしあしはそれとは別の次元で語られるべきだ。

なお、「まどからまどかちゃん」は「となりの関くん」のフォロワーであろうが、「からかい上手の高木さん」はフォロワーであろうか。「からかい上手の高木さん」のところでも書いたが、こちらは別にシチュエーションドラマではなく、共通点を探すことが難しい。山本崇一朗は「からかい上手の高木さん」を描く時に「となりの関くん」は意識していなかったと思う。

どちらかというと、「佐伯さんは眠ってる」の方が、「となりの関くん」という作品が存在しなければ生まれなかった(または作品を掲載してもらえなかった)だろうという点で、フォロワーのひとつに数えられるのではないか。

さて、本作に戻る。関くんはひたすらシュールな活動に励み、横井さんと読者はそれが気になって仕方がないのであるが、関くんが横井さんに関心がある素振りは全く見られない。横井さんが関心を持ち過ぎてつい介入し、それに関くんが腹を立てるシーンは何度かあったから、むしろ嫌っているかも知れない。まだ一巻を読んだだけだから、この後二人の関係がどうなるのかはわからないが、今のところ恋愛臭は皆無である。

登場人物が中学生なのか高校生なのか、ついでに何年生なのか(少なくとも一巻を読む限りでは)不明。

本作は「月刊コミックフラッパー」(KADOKAWAメディアファクトリー刊)の2010年8月号に読み切りが掲載されたあと、2010年11月号より連載中(ただし2018年より休載中)。



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