- 尾添椿「祖父から聞いた満洲の話」
2024年1月15日刊。30ページの薄い本だが内容は衝撃的。
著者の祖父は戦時中に徴兵され満州で軍務に就いていた。年老いて体調を崩し、寝込むようになってから著者に昔の話をするようになった。そのうち譫妄が襲ってくるように。今であれば、それが心的外傷後ストレス障害(PTSD)であるとわかる。
満州時代の理不尽な暴力は、ここに描写されたものだけでもすさまじい。こうしたことが平気でまかり通るだけで、戦争が絶対悪なのがわかる。こんな世界に放り込まれれば誰でもおかしくなる。が、本作が描くのはそれだけではない。
この祖父は、日本刀を携帯していた父から大きな傷を負わされたこともあるなど、暴力を受けて育ち、著者も両親から虐待され絶縁した過去があると言う。そうなるに至ったのは様々な理由や事情があろうが、負が連鎖しているのだ。作者は言う。「最強の殺し屋(PTSD)に世代を超えて狙われる脅威」と。
作者は普段、毒親からのサバイバーを取りあげた作品を描いているようだ。