鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「おだいばこ」

おだいばこ

おだいばこ

山本崇一朗といえば少年マガジンに「それでも歩は寄せてくる」というツンデレ漫画を連載中だが、出版社不明で無料の本があったのでダウンロードしてみた。

SNSで発表した作品をまとめたものだという。いわゆるネット自費出版本の類ということか?

タイトルの意味がわからなかったのだが、「お題」があって、それに対して描いたイラスト集。漫画ではない。

とにかくうまい。すべて人物画で、ほとんどが女性。背景はないか、簡略化されているものがほとんど。一部セリフ付きだがセリフがない方が多い。シンプルな線で描かれた人物の表情や仕草が雄弁になにごとかを語っている。それがなんとも言えずかわいい。さすがにプロの漫画家は違うと思わされた。


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「彼女ガチャ」2

  • 吉宗「彼女ガチャ」2(芳文社

彼女ガチャ 2巻 (トレイルコミックス)

彼女ガチャ 2巻 (トレイルコミックス)

2巻で完結なのかと思ったが、たまたま2巻が最新刊だというだけだった(これはAmazonサイトへの不満だが、これが最終巻なのか、以下続刊なのかは、もっとわかりやすく表示してもらいたい)。

一応、このガチャの仕組みの説明らしきことも出て来た。女性は、ガチャに入る前に催眠状態にさせられ、ガチャに入っている間は眠っている。そして、ガチャを引いた男を好きになるようになっているという。ただし一定時間後にその催眠は解けるので、その後をどうするかは自分で自由に決めてよい……

そこは単に「そういうもの」だということにしておいた方がよかったなあ。変に説明されると粗が目立つ。

出会いは確かに大切である。そもそも適当な年齢の異性が周囲にいない、という人も多いだろうし、告白しても断わられるの繰り返し、という人も多かろう。ただ、好きな人から好かれて、両思いが確認できました、「その後二人は、いつまでもしあわせに暮らしました」で終わるのは童話の中だけ。恋愛は、両思いになることよりも、それを続けることの方が何倍も難しい。

そこで本作は、出会いに関しては思い切り簡略化し、「その後」に重点を絞った恋愛ドラマだ、という見方もできる。問題が起きた時に、「変な相手に当たってしまった、リセットしてやり直し」と思うか、どうしたら改善できるかを考えるか。ひとつの話を短く収めるため、戯画化しているきらいはあるが、なかなか考えさせられる話である。


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(2020/5/3 記)

「彼女ガチャ」1

  • 吉宗「彼女ガチャ」1(芳文社

彼女ガチャ 1巻 (トレイルコミックス)

彼女ガチャ 1巻 (トレイルコミックス)

一読して、「走馬灯株式会社」を思い出した。その感想に、次のようなことを書いた。

場所や時間を特定せず、それを必要とする人の前に超常現象が起きる。あるいは、超能力を持った人が現われる。そして、当人の希望によりその超常現象を体験するが、その後はたいてい事前に期待した通りの結末にはならない……という物語の原型は、どこにあるのだろうか。著名な作品だと「笑ゥせぇるすまん」がこのパターン。Wikipediaには、「謎の多い主人公が不思議なグッズを紹介し、それに翻弄される一般人の様子を描く」というスタイルは1990年代以降、多くのフォロワー作品を生み出すこととなった、とあるが、自分が好きで熟読した作品だと、曽祢まさこの「呪いのシリーズ」もこの系統。初出が1989年3月であり、「笑ゥせぇるすまん」のフォロワー作品とは言えないだろう(長く続けるうちには影響を受けた部分もあったかも知れないが)。

読み返すと、何を言っているんだろうとオカシイ。これはそもそも、悪魔が三つの願いをかなえてくれるというアレだろう。超常現象であり、それによって自分がすごく得をすると思いお願いするが、だいたい幸せにはならない。この亜流は日本でもヨーロッパでもたくさんあって、古くから伝わる普遍的な枠組みなのかも知れない。

その悪魔をどのような形で登場させるか、そしてどのようなオチをつけるかが、作者の腕の見せ所である。それで、本作は「ガチャ」というのがいかにも今風である。この子らはいつからガチャの中に入っているのか、引かれて転がり落ちて来る時にケガをしたりしないのか、引かれた子はなぜ引いた男が好きなのか、引かれなかった子はどうなるのか、そういう疑問は感じてはいけないのだ。


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(2020/5/1 記)

「シロマダラ」

自分が高校時代に一番しあわせだったことが「シロマダラ」のような名作に巡り合えたことだとするならば、一番不幸だったのは、本作の連載があっという間に中断されてしまい、その後二度と再開されなかったことだ。

もっとも「1・2の三四郎」のように劣化するところを見せつけられることなく、中断するまで一部の隙もなく完璧な名作であり続けたことは幸福だったといえるかも知れない。それならば、単行本へ未収録なのがあと一回分あるはずなのに、いまだに増補・完全版が出ないのは最大の不幸だと言えるだろう。今回、電子版で(再)購入してみたが、それは変わらなかった。小林まことはなんでもため込むタチだから、原稿がないわけではないと思うのだが。

それより、kindle版が出たのは連載から33年経ってからだが、セリフにいくつか改変の跡が見られる。紙の書籍は処分してしまったため、正確ではないが、暗記するほど読み込んだから間違ってはいないはずだ。

ページ オリジナルのセリフ kindle版のセリフ
5 ねえちゃんの気が狂ってることを知ってて ねえちゃんがふつうじゃないことを知ってて
36 気のふれたねえちゃんに 病気のねえちゃんに
114 黒多二郎は気ちがいよ 黒多二郎はモンスターよ

今の時代、仕方のないことかも知れないけど、意味が全然変わってしまうから、直さないでほしかった。だいたい、これだけ麻薬を使用したり売ったり人を殺したりしているのは問題なくて、この言葉だけカットというのもよくわからない話だ。


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(2020/4/27 記)

「JJM女子柔道部物語」8

合宿では、旭竜高校の男子キャプテン・飯島から体落としを教わり、一発で身に着けるところが圧巻。

ところで、本作では多くは事実に基づいた話になっているようだが、実在の人物も敢えて実名では出て来ない。柔道に詳しい人なら、あれはこれのことだな、これはちょっとフェイク入っているなとか、いろいろわかって面白いかも知れないが、門外漢は(いろいろ調べて)九戸かおりは恐らく八戸かおりのことで、持丸晃菜は持田典子のことだろう、と思うぐらいが限度である。

しかし本巻では、ソウルオリンピックの翌年、音羽海上に女子柔道部が誕生したと話題になっているが(これは三井住友海上のことだと思うが)、井上靖のスピーチは、井上靖の名前とともに全文が収録されている。

新人戦では一年の才木和泉が決勝進出、神楽えもと優勝を懸けて闘う……


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(2020/4/26 記)

「1・2の三四郎」4(パロディ解説)

解説はラグビー編だけにしようと思っていたが、試合が佳境に入ってパロディネタもプロレスネタもなくなり、そのまま終わってしまったので、4巻の最後まで拾ってみる。しかし、柔道編に入っても、以前ほどには細かいパロディはない。

p28. 道場の壁に落書きが増えている。

p44. 間違って乗ろうとしたバスに歳を取った圭ちゃんがいる。話しかけているのは勇介であろう。山葉圭・田代勇介は「翔んだカップル」のキャラクター。2巻で登場した「圭ちゃん」とは別人。

p46. 車掌の北島与作子の名は、歌手・北島三郎とそのヒット曲「与作」から取ったもの。さすがにこれは解説不要か……

p70. 小林くん小野くん大和田くんは、小林まこと、「純のスマッシュ」を連載中の小野新二、「タフネス大地」を連載中の大和田夏希である。この三人は新人同期で、非常に仲が良く、「三バカトリオ」と呼ばれていたそうである。

p113. 下段のコマで虎吉の後ろに描かれている時計台に「KITAGAMI MAKOTO」と書かれている。これは、当時小林まことが月刊マガジンに連載ていた「シロマダラ」の主人公、北上良のことではないか。だから僕は、北上良は「きたがみまこと」と読むのだとずっと思っていた。しかし後日「シロマダラ」の単行本を購入して確認すると、「きたがみりょう」となっていた。ではこれは、「KITAGAMI」が北上良で「MAKOTO」が小林まことなのか、それとも別のネタ元があるのか……

p142. 列車の脇で「打倒猪木」と書かれた服を着て稽古をしている空手家? と剣道家? がいる。誰か元ネタがあるのか不明。この頃になると小林まことはアシスタントを使うようになっていて、恐らくこのコマはすべて小林自身が書いたものではないだろう(だからこの二人が空中に浮いているような構図になっている)。

p160. 真ん中のコマの「山下」は山下泰裕(ロス五輪金メダリスト・現JOC会長)であろう。ただし小林まことが描いたわけではないと思われる。「辰ちゃん」は藤波辰爾か?

p163. 映画「血染めの唐獅子チューリップ」は「昭和残侠伝 唐獅子牡丹」(主演・高倉健)から。「欲情 大地の目玉」の「大地」は「タフネス大地」から取ったものか? 「愛と誠さん」はもちろん「愛と誠」から。


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(2020/4/25 記)

「1・2の三四郎」3(パロディ解説)

p20. ラグビー部と格闘部の試合を見ようと県下の名だたるラグビー部の面々が集まって来る。青葉台の城山は「愛と誠」の青葉台高校のラグビー部のキャプテン。

p21. 東台寺の脇坂は、「おれは鉄兵」に登場する東台寺学園の剣道部主将。脇坂の向かって左は黒崎健時(この漫画では黒崎金時か)、その左は「釣りキチ三平」の魚紳さん。脇坂の右後ろは「フットボール鷹」(川崎のぼる)に登場するコーチ、ボブ・マッケンジー。城山の右後ろは「タフネス大地」(大和田夏希)の雪山大地。

p22. 2巻で登場した猪木子、安戸礼子、馬場子、雪出、子尊保布子らが再登場。彼女らはみなダンス部だった。

p36. レフェリーに暴行をはたらき反則負け……プロレスではないって。なぜ新聞部のトミ子までが巻き込まれているのか。

p67. 最後のコマの女生徒のうち、最前列右端は山葉圭にそっくりの子(2巻で登場)、左端は「愛と誠」の早乙女愛。真ん中の子も何かのキャラクターだと思うが(小林まことのタッチではないから)、今となっては思い浮かぶものがない。

p145. 猪木が日本プロレスを辞めた(辞めさせられた)いきさつについて話し始めたら止まらない気持ちは、僕にもよ~くわかります。

p146. 一コマ目の真ん中にいるヘルメットの人物は、「少年時代」(藤子不二雄A)のキャラ(僕はこの作品を読んだことがないため名前がわからないが、恐らくは進藤武)。二コマ目の左端は「おれは鉄兵」の加納。真ん中の人物も何かのキャラクターだと思う(この顔には見覚えがある)が、今となってはわからない。

p146. NWFは1970年代にアメリカに存在したプロレス団体。団体としては1975年に消滅するが、タイトルは新日本プロレスが管理・運営を継続することとなった。アントニオ猪木がヘビー級王座を長く保持したため、日本人にとってはなじみの深い名称である。

後半はラグビーの試合が佳境に入ったため、パロディネタもプロレスネタも影を潜め、真面目な学園スポーツ漫画になっているが、抜群に面白い。これが「1・2の三四郎」の真骨頂だと思う。


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(2020/4/24 記)