鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「はじめの一歩」6 - 10

はじめの一歩(6) (講談社コミックス)

はじめの一歩(6) (講談社コミックス)

はじめの一歩(7) (講談社コミックス)

はじめの一歩(7) (講談社コミックス)

はじめの一歩(8) (講談社コミックス)

はじめの一歩(8) (講談社コミックス)

はじめの一歩(9) (講談社コミックス)

はじめの一歩(9) (講談社コミックス)

はじめの一歩(10) (講談社コミックス)

はじめの一歩(10) (講談社コミックス)

日本新人王準決勝の間柴了 vs 宮田一郎で、足がほとんど動かないのに気迫で間柴に立ち向かう宮田の姿は、矢吹丈ホセ・メンドーサに対し向かっていく時の姿そのまま(タッチも似せている)。これは「明日のジョー」終盤の世界タイトルマッチの一シーンであり、読んだことのある人なら誰でも思い当たるところだから、わざとそれとわかるように描いたのだと思う。

その前に、けがのため「試合を続ければボクサー生命に関わる」として棄権するよう薦めるセコンドに対し「あいつが待っている……」と言って試合続行を選択した宮田は、重いパンチドランカーに冒されているからと試合を中止するよう進言する白木葉子に対して「ホセ・メンドーサがオレを待っているんだ」と言ってリングにあがった矢吹を彷彿させる。「このあたり、ちょっとジョーを入れますよ」と宣言しているのだ。

一方、「がんばれ元気」は気づかなかったが、よくみるとこれもあちこちにある。これは一歩と千堂の最初の対決の前、千堂の試合のビデオを鴨川会長が一歩に見せ、試合を思いとどまるように言うシーン(Round 93)。
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こちらは「がんばれ元気」で、全日本チャンピオンの皆川のぼるが世界七位の堀口元気と戦うことになるが、のぼるの所属ジムの会長が堀口の試合のビデオをのぼるに見せ、挑戦を取り下げるよう説得するシーン。
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絵柄が森川ジョージのものではなく、意図的に似せているようにも思える。しかし、「がんばれ元気」の中でも言われなければ誰も覚えていないようなシーンであり、そこはちょっと疑問である。小山ゆうのパンチの表現に感心して、一度自分でも同じことをやってみたかった、ということなのかも知れない。

その千堂 vs 一歩(一回目)で、千堂は一歩の強打をものともせず、一歩を攻め続けるが、実は既にその時は気絶しており、休憩時間が過ぎても意識が戻らずKO負けとなった。一歩の側からすると、打たれ続けて圧倒的に不利な状況だったのに勝ってしまったということになるが、これは堀口元気と海道卓のタイトルマッチに酷似している。

また、自分を慕い、尊敬してくれていた山田直道(ハンマー・ナオ)の挑戦を受けてタイトルマッチを行なう際、明らかに格下の相手でありながら鬼になり切れず、ずるずると試合を長引かせたところは、幼馴染みである皆川のぼるの挑戦を受けた堀口元気と類似のパターンである。

一歩がリカルド・マルチネスのスパーリングの相手になり、何もできずに終わるシーンは、堀口元気が関拳児のスパーリングの相手を務めた時を彷彿させる。もっとも、勢いのある新人ボクサーがチャンピオンの練習相手になったら、だいたい同じようになるか?

飯村真理(ライター)は、桐島玲子(フォトグラファー)的ポジションだ……とまで言っては、いささかこじつけの感が過ぎるか。



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「はじめの一歩」1 - 5

はじめの一歩(1) (講談社コミックス)

はじめの一歩(1) (講談社コミックス)

はじめの一歩(2) (講談社コミックス)

はじめの一歩(2) (講談社コミックス)

はじめの一歩(3) (講談社コミックス)

はじめの一歩(3) (講談社コミックス)

はじめの一歩(4) (講談社コミックス)

はじめの一歩(4) (講談社コミックス)

はじめの一歩(5) (講談社コミックス)

はじめの一歩(5) (講談社コミックス)

マガポケというアプリで、現在61巻まで無料で読めるため、久々に再読。もっとも単行本は129巻まで出ているから、半分にも満たないが。

以前は少年マガジンを毎週購読しており、本作も初登場時から読んでいた。当初は「小林まことの後を継ぐものが出てきた」という印象だった。劇画調の絵で真面目にスポーツを描きつつきっちりギャグもかます、という作風は小林まことが「1・2の三四郎」や「柔道部物語」で確立したものだが、「はじめの一歩」はその後継作品だと感じたのだ。鷹村が「柔道部物語」の鷲尾にそっくりのキャラクターなこともあって、自然にそう思えた。

また、「あしたのジョー」に(恐らく意図的に)似せて描いたシーンがあることも当初から気づいていた。

今回再読してみて感じたのは、「あしたのジョー」だけでなく、「がんばれ元気」「リングにかけろ」から持ってきたシーンも結構あるということだ。「はじめの一歩」以前のボクシング漫画の名作といえば、「あしたのジョー」「がんばれ元気」「リングにかけろ」の三つであろう。人によって好き嫌いはあろうが、この三作品を外してボクシング漫画を語ることは考えられない。そうしたことから、ごく自然に表現などを受け継いだともいえるし、先行作品へのオマージュとして意図的に描いたのかも知れないし、意識しなくても似てしまうこともあっただろう。

もうひとつ、初期においては、絵柄がそもそも小林まことに似ていた。回を重ねるにつれ、小林まこと風味は消えていくが。下記はデビュー戦の相手である小田裕介の所属する西川ジムの三上トレーナー(Roundo17)と単行本「シロマダラ」の表紙。
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「ヒビコレ 公民館のジョーさん」1

  • かたおかみさお「ヒビコレ 公民館のジョーさん」1(双葉社ジュールコミックス)

つかみどころのない作品。「働く女性」カテゴリーなのか? 何を期待しどう楽しめばいいのかよくわからないけど、絵柄には好感を抱き、話にもどこか惹きつけられるものがあった。

主人公はジョーこと大野城灯、中途採用で区民館で働くようになって一か月。彼女を取り巻く様々な出来事を描いた話。

第一話では、妊娠して周囲とうまくいっていない女性が、アドバイザーを招いてマタニティ交流会を開きたいといってジョーの元にくるが、非営利の会合にしか貸せないと言って断わる。その代わり、誰か一人友達を作ろう、そして懇親会をやろう、最初が愚痴会でいいじゃないと持ち掛ける。

この妊婦のミツコは、地元の人間だが、第二話で隣接する新興住宅街の主婦グループが開催する料理の会に参加することになった。そこで畑のにおいが臭い、農家の人に伝えてほしいと言われる。言われたミツコは、固まってしまう。一体どうしろと!?

この料理会、いろいろあって区民館でやったらどうかということになり、皆で見学に行く。その時にメンバーの一人が、ジョーに言うのだ。「農家の人に苦情入れたいんだけどそーゆー窓口ある?」「ありませんがどんな苦情でしょ」「宅地のとこまで畑のにおいがやってきて困っているんですよ」「ああ、だから土地代が安いんですよ

ジョーは、ていねいな時はていねいだが口が悪いときは悪い。そして言うべきことははっきり言う。ムカっとしながらも口に出せなかったミツコとは対照的な回答に、爽快感があった。

区民館というからには区なのだろうが、舞台は農家も多いちょっとした田舎町である(横浜にも田畑はたくさんあるけど)。ジョーは長く別のところで暮らしていたけど、もともとは地元民であり、昔の知り合いたちと協力して、この小さな町のためになることを少しでもやっていこうと考えている。という話のようだ。

ジョーの家族は祖母と弟。両親はいないようだがそのあたりの事情は不明。弟の鷹は学生ではないが仕事もしていない様子。鷹は祖母のことを「ばあちゃん」ではなく「梅ちゃん」と呼ぶ。いろいろ事情がありそうだが一巻では詳細不明。



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「となりの関くん」1

「まどからまどかちゃん」の単行本を買ったのはモーニングでの連載が終わったあとだが、Amazonのレビューを見てみると、「となりの関くん」に似ているとか、「となりの関くん」の劣化版だとかと何人もの人が書いている。「となりの関くん」という作品も森繁拓真という作家も初めて聞く名前だが、先行する作品があったようなのだ。

自分は面白い漫画が読みたいだけで漫画史を研究しているわけではないのだが、ちょっと調べてみると、アニメ化もドラマ化もされたかなりの人気作のようであり、また、森繁拓真はかの東村アキコ女史の実弟ということを知り、がぜん、興味がわいた。というわけで一巻を入手。

関くんは、授業中、授業はそっちのけでいわゆる「内職」に熱中している。が、その内容は壮大なもので、必要な道具や部材を持参するのも片付けるのも不可能としか思えないものが多く、また教師が気づかないのも不思議である。一方、隣席の横井さんは関くんのしていることが気になって気になって仕方がない。そうして「授業を真面目に受けていない」として横井さんが先生から怒られる羽目になる、という話。

なんらかのシュールな行動をする人と、それを眺める人の二人で成立しているシチュエーションドラマ、という枠で考えれば、確かに共通しているとはいえる。というより、「まどからまどかちゃん」は「となりの関くん」のフォロワー(流れを汲む作品)のひとつであり、こうした世界の枠を広げてくれた作品であると思う。

新しいスタイルの作品が登場しても、あとに続く作品がないと単発で終わってしまう。料理漫画の世界では、その昔「包丁人味平」という作品がスマッシュヒットしたが、フォロワーが生まれずそれだけで終わった。が、後年「美味しんぼ」が登場して注目を集めると、すぐに「ザ・シェフ」という作品が生まれ、その後も数多くの料理漫画が登場して作品世界や描写手法が広がり、今ではほとんどすべての漫画雑誌に必ず一作は料理漫画があるくらい、ジャンルとして定着した。

金貸しを主人公にした青木雄二の「ナニワ金融道」が登場したときは驚いたが、これもすぐに「ミナミの帝王」というフォロワーが生まれ、こちらは今でも連載が続く人気作になった。この分野も様々なフォロワーが生まれ、「闇金ウシジマくん」や「新宿スワン」はその延長線上にあるといえる。

もちろん、フォロワーの中には先行作品をパクっただけの志の低いものもある(「あぶさん」に対する「どぐされ球団」はそうだな)。しかし、基本的にはフォロワーが次々に生まれることで、そのジャンルの可能性が広がり、表現が洗練されていく。つまり、フォロワーである、ということは、決して悪いことではないのだ。作品のよしあしはそれとは別の次元で語られるべきだ。

なお、「まどからまどかちゃん」は「となりの関くん」のフォロワーであろうが、「からかい上手の高木さん」はフォロワーであろうか。「からかい上手の高木さん」のところでも書いたが、こちらは別にシチュエーションドラマではなく、共通点を探すことが難しい。山本崇一朗は「からかい上手の高木さん」を描く時に「となりの関くん」は意識していなかったと思う。

どちらかというと、「佐伯さんは眠ってる」の方が、「となりの関くん」という作品が存在しなければ生まれなかった(または作品を掲載してもらえなかった)だろうという点で、フォロワーのひとつに数えられるのではないか。

さて、本作に戻る。関くんはひたすらシュールな活動に励み、横井さんと読者はそれが気になって仕方がないのであるが、関くんが横井さんに関心がある素振りは全く見られない。横井さんが関心を持ち過ぎてつい介入し、それに関くんが腹を立てるシーンは何度かあったから、むしろ嫌っているかも知れない。まだ一巻を読んだだけだから、この後二人の関係がどうなるのかはわからないが、今のところ恋愛臭は皆無である。

登場人物が中学生なのか高校生なのか、ついでに何年生なのか(少なくとも一巻を読む限りでは)不明。

本作は「月刊コミックフラッパー」(KADOKAWAメディアファクトリー刊)の2010年8月号に読み切りが掲載されたあと、2010年11月号より連載中(ただし2018年より休載中)。



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「まどからマドカちゃん」1

  • 福田泰宏「まどからマドカちゃん」1(モーニングコミックス)

シュールな新感覚シチュエーションドラマ。サラリーマンの小田くんは通勤途中で際野まどかの住む(?)アパートの前を通るのだが、小田くんが通るときは必ずまどかちゃんは窓を開けて外を見ており、小田くんを見かけると何かを仕掛けてくる。

この「何か」とは、お寿司屋であったり、射的屋であったり、賭博場であったりする。

そして小田くんを巻き込んでいく。が、まどかは決してしゃべらない(ただし小田くんが意図を察して確認をとると、それに対してうなづく、という形での意思疎通は行なう)。

シュールというのは、初めて小田くんがまどかちゃんに会ったときは、部屋の中はごく普通のアパートの一室で、木の天井に電灯がぶら下がっており、ふすまの押し入れがあり、下着が洗濯物として部屋干しされていたりしたのだが、しばらくおまちください、といって窓を閉め、開けた時には寿司屋の店に内装が様変わりしていたこと。大きなガラスケースや各種ネタなどは、どこから持ってきたのか? さらに話が進むと、部屋の中に桜の木が生えていたり、釣り堀の池があって中を鮫が泳いでいたり、部屋全体がお風呂場になっていたりする。

さらに、まどかちゃんは寿司を握らせても一人前のようだし、手品もでき、皿回しも堂に入ったもので、マッサージもうまい。一体何者なのかと思う。これだけのすごい能力を持ちながら、まどかちゃんの「野望」は小田くんの気を惹くことだけのようなのだ。なんとかわいいではないか。

新感覚というのは、連載時のキャッチフレーズだったと思うが、こうしたタイプの作品を読むのは初めて。キャッチに偽りはない。新しいタイプの作品が生まれた、と思った

モーニングはずっと購読しているため、連載開始から読んでいた。最初は今風の絵柄の新人作家の短い話が始まったな、女の子はかわいいな、ぐらいに見ていたのだが、考えが変わったのは第9話を読んだとき。この回ではまどかちゃんはキックボクシングに取り組んでいる。小田君が朝の通勤時に見たときは素人丸出しだったが、丸一日サンドバッグを叩き続けているうち、パンチもキックもどんどん鋭くなっていき、帰宅時に通りかかったときはプロなみのレベルになっていたことだ。僕が注目したのは、まどかちゃんの動きが本当に達人のように描かれていたことだ。フットワークは宮田君並み、左フックは幕の内一歩並み。上段蹴りもキレッキレ。パンチはまだしも、切れのある蹴りを描くのは難しいのだ。正直なところ、池上遼一先生より上ではないかと……

基本はギャグ漫画なのだが、こういうところがきちんと描けると深みが出る。単行本の発売が2017年5月だから、連載開始は2017年初頭ぐらいのこと。



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「ふたり明日もそれなりに」1

  • すずゆき「ふたり明日もそれなりに」1(新潮社バンチコミックス)

ある程度でき上ったカップルの、安定した恋愛ぶりを描く漫画、というのが一定のジャンルを占めていると思う。

現在モーニングに連載中の「焼いてるふたり」を描いているハナツカシオリに似ている気がして衝動買いしたが、別人であった。別人であったけれども、内容は似ている。

付き合って一年三ヵ月、優弥(25)と里央(28)が同棲を始めたところから物語が始まる。バカップルというほどではなく(その時期は過ぎたように思われる)、結婚を意識するわけでもなく、日々のほのぼの生活を描いた話。とはいえ盛り上がる場面はあり、性交は描かれないけどキスシーンは何度かある。ちゃんと大人の恋愛である。

結構じわじわくる。2巻も買おうかな。



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「恋文-山本崇一朗短編集-」

かなり初期の作品を集めたものと思われる。「からかい上手の高木さん」や「ふだつきのキョーコさん」のプロトタイプ的な作品も見受けられる。

全作、それなりに面白いけど、短編だと物足りない。「からかい上手の高木さん」も短編ではあるが、連作であり、「あしたは土曜日」なども含め繰り返し同じキャラクターで話を紡いでいくことで、話に深みが出ている。そういう作品を(スピンオフも含めて)ずっと読んできたわけで、それと比較してしまうと、シンプルだなあと思ってしまう。



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