鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「うちのクラスの女子がヤバい」1

紙版・kindleともに2016年4月刊行。連作短編。ジャンルでいえば「学園もの」になるか。

この学校の1組には、思春期性女子突発型多用可塑的無用念力……略して「無用力」と言われる力が備わった女子が集められている。原因は不明だが珍しいことではなく、高校を卒業する頃にはほとんどの場合その力を失う。その力は人それぞれ違い、言われないとわからない。「無用力」というくらいで、知らないと驚くが、ほとんど何の役にも立たない。例えば、心拍数が上がると他人の皮膚が透けて見えるとか、イライラすると指が蛸の足のようになるとか。

そういう女子を集めたクラスに起きるさまざまな日常を描いた作品。超能力者がたくさん登場するほのぼの漫画。

思春期特有の、その人独特の考え方だったり生活習慣だったりを比喩的に体現されているということなのかな、と思う。少女漫画風ではないが、話が女子の視点で展開されるのが新鮮だ。

表紙はドラクロワの「民衆を導く自由の女神」のパロディと思われる。

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「制服ぬすまれた」

紙版・kindleともに2018年10月10日刊行。短編集。「制服ぬすまれた」「ワニ蕎麦」「カラスが鳴くから」「鉄とマヨ」「ハンドスピナーさとる」の5編を所収。

表題作はモーニングに掲載された時にちょっとした衝撃を受け、以来この作者に気を留めるようになった。

公園でコスプレのような派手な服を着て泣いている少女を見かけた大人の女性が話を訊いてみると、プールで泳いでいる間に制服を盗まれたのだという。仕方なく文化祭で使った衣装を借りてきたが、大事(おおごと)にしたくないから学校の先生にも言っていないと。

大人の女性は、実は自分も高校時代に制服を盗まれたことがあった。親にも言えず、川に落ちて汚れたから捨ててきたと言ったらしい。親からはいまだに「制服を買い直したりして大変だった」と言われる。泣き寝入りすると、被害が広がるかも知れないのだ……

というわけで犯人捜しを始める。ミステリーではないが、犯人は割と意外で虚を突かれる。制服を盗られるということが、金銭的な問題以上に当人を長期にわたって傷つける、という部分に主眼を置いた作品だと思う。

最後に女性が会いに行きたいと思う「昔の友だち」というのは誰のことなのだろう?

初出一覧

作品名 掲載誌 出版社 掲載号
制服ぬすまれた モーニング 講談社 2017年34号
ワニ蕎麦 月刊flowers 小学館 2015年9月号
カラスが鳴くから 月刊flowers 小学館 2018年8月号
鉄とマヨ 月刊flowers 小学館 2018年10月号
ハンドスピナーさとる 月刊flowers 小学館 2017年12月号


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「ロジックツリー」上・下(完結)

2021年6月10日、上下巻同時発売。「Wings」2015年12月号~2021年2月号掲載。

今朝の東京新聞のコラムで、ブルボン小林が「今年の漫画ベスト5に挙げたい」と推していたため読んでみようかという気になり、さっそく買い求めた。

内容の紹介は難しい。ひとことで言えば高校生の女の子の蛍(けい)の成長譚、ということになるのだろうが、わずか二冊にいろいろなものが詰め込まれ、時間も経過し、わちゃわちゃしてつかみどころがない。ブルボン小林のいう「よそんちの……やりとりをファミレスの後ろの席で漏れ聞くような魅力」は言い得て妙である。

とにかく、上巻を買って読んでみて、すぐに下巻も買ってしまった。読み応えのある作品だった。今年のベスト5に入るかどうかはともかくとして。

この作者の作品は初めて読むが、こういう雰囲気の作品はどこかで見たことがあるような気がして仕方がない。吉富昭仁衿沢世衣子か……と思って彼らの作品を読み返してみたが、別に似ていない。表紙のタイトルデザインは和山やまの「夢中さきみに。」に似ているような気がしたが、並べてみても似ているというほどではない。うーん、この既視感は何なのだ。あ、目元には近藤ようこ、笑った顔には星里もちるが入っていると思う。

追記(12/21)

高松美咲かとも思い、読み返してみたが、やはり似ているというほどではない。

「彼女ガチャ」8(完結)

流行りの「ガチャ」に女性が入っていたら、という男性の夢を具現化した話。もちろん、そうそううまい話があるわけはなく、ほとんどの場合、ガチャを引いた男性は幸せにはなれない。

  • 吉宗「彼女ガチャ」8(芳文社

49話

  • 九条あかね
  • 藤本彩乃が九条あかねに手をかける……

50~51話

  • 藤本彩乃
  • 脅迫されてガチャへ入るよう強制された藤本彩乃の最初の相手は高校生に異常な性欲を感じる男。ということはこの時の彩乃は高校生? もし彩乃が男に応えていたらどうだった?

52話

  • 高宮ゆかり(レア度?、会社員)
  • ゆかりを引き当てた男は年下のチャラい大学生。就活中だがまだ内定が取れていないと知ったゆかりは、特訓を施すが……
  • 一応これもハッピーエンドか?

53~55話

  • 藤本彩乃(スペシャルスーパーレア、アイドル)
  • 木下詩織が職場の同僚に紹介された「彼女」は藤本彩乃だった。でも結局別れてしまう。
  • 木下詩織がガチャを引き、彩乃を引き当てる。
  • 彼女ガチャは解散。

彼女ガチャのようなシステムはちょっと考えれば(考えなくても)現実にはあり得ない。だから、現実なのか夢なのか、なんだかわからないような曖昧なままにしておいた方がよかったと思う。途中からガチャの仕組みを解き明かしたり、運営者の裏側を見せたりして、わかったような説明をすればするほど非現実的で滑稽な展開になる。秘密がばれたら困るといって口封じのために九条あかねを殺すが、それほどの秘密があったようには思えないし、運営には巨額の投資をしたと思われるが、些細なきっかけでいとも簡単に解散してしまうし。

途中まで続いていたオムニバス形式の連作短編をずっと続ければよかったのに、と個人的には思う。とはいえ、女性の人権を無視した話であり、長く続ける話ではないか。

これまでのおさらい。

女性 概要
1 1-2 藤本彩乃(1)(2)(☆4レア、書店員)、山本房江(☆4レア、おばあさん) 趣味が一致すると思われたが
1 3-4 富田祥子(☆3ノーマル、アパレル) 小心者のDV
1 5-6 中西明美(☆3ノーマル、証券) イキり過ぎ
2 7 片瀬桃花(☆3ノーマル、巨乳) 本気で好かれたけど
2 8 牧瀬亜紀(☆4レア、茶道家 嫉妬深い
2 9-10 飯田明美(☆2ノーマル、会社員) ダイエットして失恋
2 11-12 真田夕香(☆2ノーマル、無職) 余命わずか
2 13 木下詩織(☆?ノーマル、元陸上選手) 藤本彩乃を救おうとするが
3 14-15 神崎優(☆5スーパーレア、グラビアアイドル) IT富豪に失恋
3 16 須藤元子(☆3ノーマル、無職) 性格のよい、いい子だったが
3 17-18 木下詩織(2)(3)(☆3ノーマル、体育教師) ハーレムガチャだったのはお仕置きか?
3 19 大野ミチコ(☆1ノーマル、無職) スカウトマンに悪利用され
3 20 三栖唯(☆3ノーマル、アルバイト) アイドル目指してパパ活
4 21-22 小澤美和(☆3ノーマル、主婦)、上野由里子(☆3ノーマル、大学生) 夫は妻が当たるまでガチャを回し続ける
4 23 吉田敦子(SR) 付き合う相手はみな幸せになるが、誰も彼女を幸せにしてくれない
4 24 水虫交響楽団(お笑い芸人) 期間限定ペアガチャ(二人と付き合える)
4 25 新條小夜 男ががずっと好きだったのは、小夜の双子の姉の真昼だった
4 26 江夏球子(☆3ノーマル、飲食店ホールスタッフ)、千葉紗子(☆3ノーマル、会社員) 趣味が同じ人を探せる趣味ガチャ
4 27 木下詩織(4)(☆4レア、体育教師) ついにスーパーレアになれたか……?
5 28 広末海(☆4レア、派遣社員 課長からパワハラ・セクハラを
5 29-30 三木谷多香子(専業主婦) 真面目な彼を振ってDV男と結婚したが……
5 31 花田良佳(☆3ノーマル、占い師) ガチャの相手との相性が悪いことを占いで知った良佳は……
5 32 小泉愛(☆3ノーマル、飲食店アルバイト) 幸せな結婚をしたはずだが、男は元カノが忘れられない……
5 33-34 藤本彩乃(3)(4)(☆6SSR) いつの間にかSSR(スーパーレアの上)に昇り詰めていた
6 35 樋口朱美(レア度?、職業?) 大食いだが、味わうことと、食べ物に対する感謝は忘れない
6 36 青田裕子(☆3ノーマル、会計士) 母親の呪縛から離れられない男
6 37 日下部結衣(☆1、化粧品会社事務) 素顔は不美人だがメイクの腕は達人
6 38 長谷川博子(☆4レア、経営コンサルタント 優柔不断な男には婚約者がいた
6 39-41 木下詩織(5)(6)(7)(☆5スーパーレア) 藤本彩乃がアイドルになったことを知った沙織は「彼女ガチャ」の運営者に接近する
7 42 小日向杏(レア度?、研究者) 「彼女ガチャ」被験者第一号
7 43 増田幸子(レア度?、職業?) 娘を押し付け金を奪って逃走
7 44 皆川南(レア度?、職業?) 飼い犬を大切にしてくれる男性を選ぶ、珍しいハッピーエンド
7 45 広瀬まりか(ノーマル、一般事務)、吉岡ゆり子(ノーマル、雑貨店販売員) 女生徒に抱きつかれた男性教師がクビに
7 46 片瀬桃花(ノーマル、カフェ店員) エルフのコスプレが好きな(だけの)女
7 47-48 九条あかね(プラチナスーパーレア、女優) 九条あかねは黒幕の愛人で奴隷


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「彼女ガチャ」7

  • 吉宗「彼女ガチャ」7(芳文社

まだ続くようならやめようかと思ったが、8巻で完結したようなので、全巻揃えることにした。

42話

  • 小日向杏(レア度?、研究者)
  • 「彼女ガチャ」被験者第一号

43話

  • 増田幸子(レア度?、職業?)
  • 娘を置き去りにし、がんにかかって先のない男から金を奪って逃走
  • もう少し我慢すれば合法的に全資産が自分のものになったのに。子供を育てるのが厭だったのか?(自分の子じゃなかったりして……)

44話

  • 皆川南(レア度?、職業?)
  • 飼い犬を大切にしてくれる男性を選ぶ
  • 珍しく(?)ハッピーエンド

45話

  • 広瀬まりか(ノーマル、一般事務)、吉岡ゆり子(ノーマル、雑貨店販売員)
  • 家事に感謝せずすぐに振られる男。生徒からは慕われていたが……?
  • 生徒に抱きつかれただけで抱きつかれた方の教師が罷免されるのは納得がいかない。だいたいその瞬間が写真に撮られることが怪しい。ご時世とはいえ、まあ、そんな学校で教師を続けてもいいことはなかっただろう。抱き着いたほうの生徒は、自分の軽はずみな行為で人の人生を狂わせたことをもっと反省すべきでは。

46話

47-48話

  • 九条あかね(プラチナスーパーレア、女優)
  • 九条あかねは偉い人(大手広告代理店の役員)の愛人で奴隷。「彼女ガチャ」の宣伝のお先棒を担がされる。

これまでのおさらい。

女性 概要
1 1-2 藤本彩乃(1)(2)(☆4レア、書店員)、山本房江(☆4レア、おばあさん) 趣味が一致すると思われたが
1 3-4 富田祥子(☆3ノーマル、アパレル) 小心者のDV
1 5-6 中西明美(☆3ノーマル、証券) イキり過ぎ
2 7 片瀬桃花(☆3ノーマル、巨乳) 本気で好かれたけど
2 8 牧瀬亜紀(☆4レア、茶道家 嫉妬深い
2 9-10 飯田明美(☆2ノーマル、会社員) ダイエットして失恋
2 11-12 真田夕香(☆2ノーマル、無職) 余命わずか
2 13 木下詩織(☆?ノーマル、元陸上選手) 藤本彩乃を救おうとするが
3 14-15 神崎優(☆5スーパーレア、グラビアアイドル) IT富豪に失恋
3 16 須藤元子(☆3ノーマル、無職) 性格のよい、いい子だったが
3 17-18 木下詩織(2)(3)(☆3ノーマル、体育教師) ハーレムガチャだったのはお仕置きか?
3 19 大野ミチコ(☆1ノーマル、無職) スカウトマンに悪利用され
3 20 三栖唯(☆3ノーマル、アルバイト) アイドル目指してパパ活
4 21-22 小澤美和(☆3ノーマル、主婦)、上野由里子(☆3ノーマル、大学生) 夫は妻が当たるまでガチャを回し続ける
4 23 吉田敦子(SR) 付き合う相手はみな幸せになるが、誰も彼女を幸せにしてくれない
4 24 水虫交響楽団(お笑い芸人) 期間限定ペアガチャ(二人と付き合える)
4 25 新條小夜 男ががずっと好きだったのは、小夜の双子の姉の真昼だった
4 26 江夏球子(☆3ノーマル、飲食店ホールスタッフ)、千葉紗子(☆3ノーマル、会社員) 趣味が同じ人を探せる趣味ガチャ
4 27 木下詩織(4)(☆4レア、体育教師) ついにスーパーレアになれたか……?
5 28 広末海(☆4レア、派遣社員 課長からパワハラ・セクハラを
5 29-30 三木谷多香子(専業主婦) 真面目な彼を振ってDV男と結婚したが……
5 31 花田良佳(☆3ノーマル、占い師) ガチャの相手との相性が悪いことを占いで知った良佳は……
5 32 小泉愛(☆3ノーマル、飲食店アルバイト) 幸せな結婚をしたはずだが、男は元カノが忘れられない……
5 33-34 藤本彩乃(3)(4)(☆6SSR) いつの間にかSSR(スーパーレアの上)に昇り詰めていた
6 35 樋口朱美(レア度?、職業?) 大食いだが、味わうことと、食べ物に対する感謝は忘れない
6 36 青田裕子(☆3ノーマル、会計士) 母親の呪縛から離れられない男
6 37 日下部結衣(☆1、化粧品会社事務) 素顔は不美人だがメイクの腕は達人
6 38 長谷川博子(☆4レア、経営コンサルタント 優柔不断な男には婚約者がいた
6 39-41 木下詩織(5)(6)(7)(☆5スーパーレア) 藤本彩乃がアイドルになったことを知った沙織は「彼女ガチャ」の運営者に接近する


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「君の優しい手」2(完結)

紙版は2010年5月、大都社刊。電子版は2014年12月、秋水社刊。1、2巻同時発売だった模様。連作短編で、「覚めない夢(前編)」「覚めない夢(後編)」「ブラインド」の三編を収録。初出不明。

「覚めない夢」は初の前後編の大作。美月自身、かなり危険な目に遭うが……。これがシリーズ最終話ということになっているが、美月と北園の間も何も進展していないし、明確なラストメッセージも打ち出されていない。ぜひ続編に期待したい。

「ブラインド」は独立した短編。兄嫁に相談されて、失踪した兄を追いかける菜奈がたどりついた真相は……。これもかなり怖い話だ。



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「君の優しい手」1

紙版は2010年5月、大都社刊。電子版は2014年12月、秋水社刊。連作短編で、「君の優しい手」「シークレット・マーダー」「北園和久の退屈な日常」の三編を収録。初出不明。

山内規子の作品を、これまでホラー&サスペンスとひとくくりにしてきた。怪奇現象もしばしば起きるので、これはもちろん間違いではないが、どちらかといえば、ヒューマンストーリー、ラブストーリー、コメディなどに軸足を置いた作品が多く、殺人事件も起きたりするが、あまり湿っぽくならず、明るい作品が多かった。

しかし、本作は本格的なサスペンス。ハラハラするし、怖い。こういう作品が読みたかった! 山内規子の代表作は「霊感動物探偵社」ということになるのだろうが、確かにこれはこれで優れた作品だが、自分の好みと合致しているという点では、本作こそ最高傑作だと推したい。

江藤美月は、常に右手(だけ)に手袋を着用している。皮膚が弱いから……ということにしているが、実は、素手で他人に触れると、その人が考えていることが読めてしまうから。他人の本心を知ってもいいことはないから。が、うっかり手袋を外した時に他人に触れてしまい……

サスペンス色が強い作品は、紹介が難しい。とにかく、ぞくぞくする話だった。「北園和久の退屈な日常」は番外編で、コメディタッチだけど、最後にほっと一息つける。



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