鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「牧場OL」3(完結)

2018年1月4日刊。

誇張もあるのだろうが、農業経営の難しさも端々に語られる。大規模化・効率化を進める方がいいのか。海外との提携も無視できないところまできている(そもそも初田牧場はスアンというベトナムからの実習生を受け入れている)。など。大規模化を進めるノーススターファームや初田農場との提携を持ち掛けるオーストラリアの会社、ノーザンクオールの出現など、新たなフェーズを迎える。

それでも、仕事をするのは人間であり、個々の人間のキャラクターと人間関係がなにより大切だということを、改めて実感させてくれる。

オーストラリア出身のバイカー・メアリが初田牧場に迷い込んだ時の社長の態度に人間性が垣間見える。この人はこうやって人脈を築いてきたのだ。イタドリ食品ともそうだ。

英語のわからないスアンが、メアリと交流するため、メアリが訪ねてきた日の夜に英語を勉強し、翌朝「エクスキューズミー。アイ・スタディ・イングリッシュ・ワンナイト。アイ・キャン・スピーク・イングリッシュ。ヘイ・メアリー、ディス・イズ・スノーダルマ!」と話しかけるところは圧巻。恐らくこれがスアンの話せる英語のすべてだろうが、これでI can speak English.と言えるところもすごいし、これでメアリと打ち解けるところもすごい。語学の極意を見せつけてくれるかのようだ。

本書で一番好きなエピソードは、初田社長と仲違いしていた娘の咲来(さくらと読むのか?)がノーザンクオールの代表として初田牧場と交渉しに来たが、社長は「立ち話で十分」と家にも入れない。その時虎杖浜が、「ホテルの予約を忘れた! 近場はどこも満室だ!」と慌て出し、申し訳ないが実家に泊まってくれと言い置いてさっさと帰ってしまうところだ。

この時南は「こんなところですが、悪くないですよ」。糸魚沢は「こんなところですが、くつろいでください」などと、咲来が「こんなところにとどまるべきではない」と言ったことを根に持って(?)言い返すところが面白い。

南は本社へ異動の話が出るが、それを蹴って北海道に残る。糸魚沢が本社へ異動し、新たな新人が南の下に配属される。初田牧場も人を増やした。鹿谷とハルカは結婚。実習生だった楓は農協勤務。鵡川大河は漁師に。虎杖浜鶴沼はオーストラリアへ異動。スアンが成長し、ベトナムで活躍する姿が垣間見えるのが嬉しい。

登場人物

星置当麻 ノーススターファーム代表、酪農王子
北浜恵文 ノーススターファーム
北星 ノーススターファーム
メアリー・ブラックモア イカ
朝里麗華 朝里綿羊牧場次期社長
初田咲来 初田社長の娘、ノーザンクオール
荻伏瑞穂 イタドリ食品新人
笹森広郷 初田牧場新人


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「牧場OL」2

2017年1月7日刊。

2巻では個性的なキャラクターがどっと増える。直腸検査大好きの巨乳・舎熊、糸魚沢をライバル視する虎杖浜、その部下の鶴沼、三人の新たな実習生など。

1巻でハルカが鹿谷に恋していることが明かされたが、2巻では虎杖浜がスアンに一目惚れ、鶴沼は恐らく虎杖浜に憧れの念を抱いている。舎熊は、今のところは仕事優先でいいといいつつ、町コンには胸を強調するドレスを着てきたりして、やはり気になるお年頃……? と、人間関係も色めき立つ。それに、農家にとって結婚は単なる恋バナではない。後継者問題に密接に関わる重要な問題だ。

南や舎熊らが、社長の奥さんに、社長と出会ったきっかけを訊いたときに、「嫌だわ」と言いつつ「長くなるから家で話しましょうか」とノリノリで話し始めるシーンが好きだ。

登場人物

舎熊郁恵 鹿谷と同期 受精師
虎杖浜 糸魚沢と同期 イタドリ食品
鶴沼 南と同世代 イタドリ食品
鵡川大河 南より少し年下 実習生、フリーダム
鱒浦金吾 南より少し年下 実習生、鱒浦畜産
楓岬 南より少し年下 実習生、クール


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「牧場OL」1

紙版、電子版とも2016年2月5日刊。絵柄はあらゐけいいちと同系列。最近の流行ではない気がするが、自分はこのタイプの絵は好感度が高いため、思い切って買ってみたが、内容も悪くはなかった。

牧場で働く女性社員を描いたもので、第一次産業に焦点を当てたビジネスもの。同傾向の作品として「ハナヨメ未満」、「銀の匙」(実写映画は見たが原作は未読)や映画「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」などが思い浮かぶ。この分野の作品は少ないが、もっと増えるといいと思う。

主人公・野花南はイタドリ食品に入社。本社は都心の一等地にあり、仕事に遊びに恋に……はなやかな都会生活が始まることを楽しみにしていたが、配属先は北海道で畜産農家の手伝いだった――

というところから始まる、野花南の奮闘記である。恋バナもなくはなく、ビジネスものの側面もなくはないが、基本的には畜産農家の仕事ぶり(問題点も含めて)を紹介する作品になっている。原作者もついていないようだが、畜産農家の仕事にかなり詳しい(ように見受けられる)。

基本的にユーモラスで、登場人物の顔立ちは幼いが、女性キャラは意外に色気もある。厭な人は出て来ず厭な事件も起きないので、好感度高く読み進められる。ハルカが南の敵役になるのかと思ったが、なんだかんだで可愛らしく、むしろ南の友だちの一人という位置づけだろう。作者の人柄の良さが反映されているように思う。

なお、物語冒頭で、北海道への配属を言い渡す人(人事の人?)が、なぜ自分がこの業務に配属になったのかを問う南に対し、「さあ?」「細かいことは現地で聞いてくれ」と説明しているが、いくらなんでもこれはない。南の業務目的(農業のノウハウを身につけることなのか、農家とのパイプを太くすることなのか、など)を明確にし、かつ、南に命じる理由(これが務まるのは君しかいない! など)を説明しなければダメではないか。南は目的意識をもって働けないでいるが、それは本人ではなく会社の責任だと思う。

登場人物

野花南 22 イタドリ食品の新人OL
糸魚沢 南より年上 イタドリ食品、南の先輩
鹿谷 南より年上 初田牧場
初田牛蔵 大人 初田牧場の社長
社長の奥さん 大人 -
? ? 社長の飼い犬
スアン 南と同世代 ベトナムからの実習生
鷲巣 大人 牧場経営者
鷲巣ハルカ 南と同世代 鷲巣の娘
鹿谷の父 大人 町役場観光課


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「海自オタがうっかり「中の人」と結婚した件。」1

  • たいらさおり「海自オタがうっかり「中の人」と結婚した件。」1(秀和システム

2015年2月刊行。電子版は2015年4月刊。kindleだとさほど意味のない区別になるが、これは書籍扱いのコミックスだと思う。このような不思議な区分がいつから発生したのかは定かではないが、市民権を得たのは「ダーリンの頭の中」以降だと考えている。書店ではコミックスのコーナーになくて探しにくいとか、概して高いとか、いろいろ言いたいことはあるのだが、本作とはとりあえず関係ないので略。

広告で見ておもしろそうだったので買ってみた。タイトル通り、海自オタだった作者が、海自の基地イベントで出会った男性と結婚し出産するまでを綴ったエッセイ漫画。

あることを「好き」であるというのは別に恥ずかしいことではないが、「オタ」となると、それは隠しておきたい性癖である、という考えがまず前提になっている。実際には両者の区別は曖昧であり、作者はどういう点で自分が「オタ」であると認識しているのかはわからない。オタ属性がある人ならわかるだろう、というつもりのようだが、同人誌ではないのだから、その説明は必要だろう。意味のない壁を自分で作って壊すのに四苦八苦しているだけのように、自分には思える(作者は最初はオタであることを隠して付き合っていて、それを告白した、というのが山場になっているが、自分の職業が好きだと言われて怒る人はいないと思うのだ)。

それから、これは恋愛漫画ではない。作者が中の人に惹かれた様子はわかるが、相手がなぜ作者と付き合うようになったのか、最初にデートすることになった経緯こそ大事だろうと思うが、それについては触れられない。いつの間にかデートする間柄になり、いつの間にか結婚を意識するようになっている。キスシーンはおろか、手をつなぐシーンもない。それを期待すると裏切られる。

奥付を入れず151ページだが、実は漫画作品は123ページまで。その後「特別リポート」として聖地訪問の様子が描かれるが、夫さんは登場せず、一応漫画形式になってはいるものの、文章と写真が多く、絵はわずか。さらに砲雷長へのインタビュー(7ページ、文章中心)にあとがき(2ページ、文章のみ)。これを面白いと思って隅から隅まで読む人と、飛ばす人に分かれるだろう。自分は後者。

漫画自体は、決して面白くなくはない(ラブシーンがないのはマイナスポイントではない)ので、誠実に、漫画作品として昇華させるように努力してくれたらいいと思うが、書籍扱いなのだから文章がたくさん入っても文句を言うなよということだろうか。

価格が通常のコミックスのように5~600円だったら、続けて買うと思うが、その倍近くするのにこの内容だと、1巻でいいかな……



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「うちのクラスの女子がヤバい」3(完結)

2017年4月刊行。

リュウは女の子の格好をするのが好きな医学上の男性だが、タラハシが好きだった(タラハシのことは親友だと思っているのか恋愛的に好きなのか確信がなかった)。いまさらだけど、この学校は男子がスカートを穿いていてもおとがめなしなのだ。いい学校だ。

そういえばこの学校は制服がない。みんな学生服っぽい服を着ているから気づかなかったけど、着ている服がみんなバラバラ。各自が考える高校生らしい格好をして来ているということか。

過去に無用力をコントロールすることが研究されたことがあり、増幅装置(のついたベルト)が開発されたことがあったけど、それには強烈な副作用があるため開発が放棄された経緯があった。

さて、3巻では最後の謎、ウイルコさんが締めくくる。なぜ彼女は一人、ちんちくりんの背丈なのか。なぜなんでもお見通しで、いつも悟ったようなことを言っているのか。この謎が解き明かされたところで物語は大団円を迎える。

個々のキャラがよく立っていて魅力的な人が多いので、これからも何度も読み返すことになるだろう。

表紙はなんの絵が元になっているのかわからなかったが、いしたにまさき氏のコラムに教えられた。ディエゴ・ベラスケスの「ラス・メニーナス(女官たち)」だそうだ。この絵は知らなかった。

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「うちのクラスの女子がヤバい」2

2016年9月刊行。

クラスひとりひとりのキャラが割とよく立っていることと、女子それぞれの「無用力」が面白く、その能力を発露させてしまうきっかけと発露された結果の顛末が独特で、すべて表にしてまとめてみたいと思うほど。

高校生の日常風景だから、恋バナもある。自分としては、そういうことが絡んだ方が好みである。

1巻では、学校(教師)側は、無用力は人畜無害だし、そのうち消えるものだから気にしても仕方ない、という態度だった。しかし2巻では、過去に学校が無用力を研究したことがあるが、中止され、秘密裏に葬られたらしい……とか、無用力を有効活用して金儲けをたくらむ人が出たりとか、物語が大きく動き出す。

頻度は少ないが、時々顔度出すウイルコさんの存在感が大きい。委員長的なのだがそれとも違う。いつも冷静で感情を顔に出さず、dれかが極端に走りそうになった時に止める役というか。クラスの女子はみなそれなりに可愛いのに、一人だけ背が低くて顔が大きく、可愛くなく描かれているのも気になる。

表紙はサンドロ・ボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」のパロディ。

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「JJM 女子柔道部物語」12

  • 小林まこと「JJM 女子柔道部物語」12(イブニングコミックス)

発売日に即、購入。11巻の予告編で、見開きで「祖父と和解なるか?」などと出ていたため、脇道に逸れた話が延々と続くようだと厭だな、と思ったが、そんなことはなく、祖父とのエピソードはあっさり終わった。

さて、春高で女子7階級のうち4階級を制覇(しかも2人が準優勝)し、全国大会でも全員が8強入り、藤堂美穂は3位に食い込む結果を残した。次はインターハイかというとそんな呑気なことは言っていられず、北海道代表として毎週のように様々な大会に出場することになるのだった。

そして全日本体重別選手権。高校生なのに全日本大会への出場である。ここでニペイこと二瓶幸子の一回戦の相手は、一級の中学生……黒帯ですらない相手で、確実に一勝できると思ったら秒殺された。相手は田村亮子であった……

花山監督は全員一回戦負けと決めつけていたが、神楽えもは一回戦・二回戦ともに一本勝ちし、三回戦へコマを進めるのであった。

小林まことにとっては、月二回刊のイブニングはちょうどいいペースなのかも知れない。しかし週刊連載ではないため、ペースがゆっくりしていて、なかなか怒涛の展開というわけにはいかない。特に今回のように大会に出て勝ち進んでいる時は、どんどん次を見せてほしいと思う。本作は一応それなりに人気があって、単行本は100万部を突破したというが、イマイチでもあるのはそこが大きな理由なのではないかと思う。

もっとも週刊連載だと、とかくひと試合が間延びしていく傾向にあるから、結果的にどちらがいいのかはわからない。



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