鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「伝説 トキワ荘の真実」

トキワ荘という言葉と長谷邦夫の名前で買ったが、これも全くの期待外れだった。タイトルに惹かれて購入しがっかりしている人がほかにもいるようなので、故人を悪く言いたくはないが、これもはっきりと書いておきたい。

「マンガで食えない人の壁」と違い、ちゃんとした漫画作品である。

長谷邦夫の作品は、一時期はいろいろ読んだ。良くも悪くも赤塚不二夫そっくりのタッチではあるのだが、少なくとも絵はうまい人だった。また、文も立つ人で、漫画評論のようなものもいろいろ目にしたことがあるが、なるほど、と思わされることが多かったと記憶している。

しかるに本作は、まず絵が壊滅的に下手だ。絵が下手な漫画は、それだけで読むのが苦痛だが、手塚治虫石森章太郎はじめ、知っている人がバンバン登場するから、その興味関心だけで読み続けた。が、虚実入り混じった話であるのは了解の前提で、話の展開が支離滅裂過ぎる。

古い本なのかと思い込んでいたが、進撃の巨人ネタやデビルマンレディーネタが登場する。案外最近の作品である。あとがきによれば、東日本大震災のあとで書き始めた作品だそうだ(単行本は2012年刊)。長谷氏も75歳だ。全盛期のレベルで絵を描き、話をまとめることはもはやできなくなっていたのだろう。

個人的には、吾妻ひでおを登場させたことだけは買う。

なおあとがきで、井上陽水の「桜三月散歩道」(アルバム「氷の世界」所収)という曲の作詞をした長谷邦夫という人が、この長谷邦夫と同一人物であったことを知った。驚いた! あれは実に素晴らしい歌詞である。長谷邦夫はやはりタダモノではなかった。



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