鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

あとがきも芸である。「おくることば」(全3巻)

  • 町田とし子「おくることば」1~3(シリウスコミックス)

1巻は2017年11月9日刊、3巻は2018年11月9日刊。青春ミステリー&サスペンス。表紙の絵柄から、ファンタジーものを想定してしまったが、全く違うジャンルの作品だった。大今良時と混同したのかな。

物語は、男子高校生の佐原が交通事故で死ぬところから始まる。幽霊(?)は現世にとどまり、自分は千秋に殺されたのだと言い、その真相を皆に伝えようとする。が、彼の姿は誰にも見えず、彼の声は誰にも聞こえない……というもの。実は佐原が事故に遭った場所は、以前、みったんこと飛鳥実知が事故で死んだ場所でもある。みったんは小学生だった頃の佐原と千秋が可愛がっていた子だった……

佐原の死がまずミステリアス。漫画を読んでいる限りでは自分で道路に飛び出したように見えるが、本人は殺されたと言う。それとは別に、自分が殺した、と自責の念に駆られる人がいる。異常さを感じ取り、真相を解明しようと動く人間が出てくる。これが縦軸としてのミステリー。

絵に描いたようにいい人だと思っていた人に実は裏があったり、イヤな奴だと思っていた人が案外そうではなかったり、キモいオタクだと思っていた人が想像以上にキモかったりと、人物造形も二転三転する。幽霊は人の行けないところへ行き、人が聞けない話を聞くことができるが、誰にも伝えられない。人間で事件を勝手に調査している人は、行きたいところへ行けないし、会いたい人に簡単には会えない、という設定の妙がある。

こうした点が絡み合って、事件はサスペンスフルに展開していく。事件の真相は、恐らくほとんどの読者が想像することはできない。話が進む中で、主要な登場人物が自分に向き合わざるを得なくなり、相手との関係性も見直すことになり、「気づき」を得ていく。このあたりは青春ドラマでもある。

ダラダラと引き延ばさず、3巻で完結するスピーディな展開もいい。

いろいろと欠点を指摘することはできるが、ストーリィ展開は概ね満足している。

ただし、ひとつだけ、はっきり言っておきたいことがある。1巻最後のあとがき、ありゃなんだ?

「この作品は、5年ほど前に1話目のネームを描いたきりそのまま投げ出してしまっていた作品でした」
「担当さんとの初打ち合わせに何も用意していなかったのであわてて昔のネームを持っていく」
「当時の自分がどんな心境で描いてたのかわかりません」

謙遜も入っているのだろうが、作品を気に入った読者にしてみたら、作者には魂を込めたと言ってほしいわけで、こんなことを言われて応援しようという気持ちになるわけがない。

3巻にもあとがきがある。ここではあろうことか、没にしたストーリー展開を述べてしまっており、Amazonのレビューで「こちらの方がよかった」と書かれる始末である。

こんな間抜けなあとがきは見たことがない、と言いたいところだが、残念ながら、プロになったばかりの人の作品には時たま見られる。同人誌時代のノリをそのまま持ち込んでいるような印象である。「あとがき」もひとつの作品であり、ただ思ったことを書けばいいのではないこと、芸のひとつも見せられないのなら書くべきではないことを、声を大にして言っておきたい。



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