鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

あだち充の最高傑作「ナイン」1

1980年4月15日刊。「週刊少年サンデー増刊号」掲載作品。

熱血スポコン漫画で始まり、ラブコメで終わった作品。この辺かは徐々に表れたと思い込んでいたが、何十年ぶりかで再読すると、熱血スポコンは第一話のみであり、以降はラブコメである。唐沢の精悍な表情は第一話でしか見られない。

倉橋の父親は甲子園の優勝投手だった。が、肩を壊して野球ができなくなると、甲子園のヒーローから役立たずの社会人になってしまい、苦労に苦労を重ねてきた。息子の永二にはそんな思いを味わわせたくないと思い、高校へ入ると野球を禁止し、ひたすら勉強することを強要した。が、好きな野球ができない永二は精神に異常をきたし……

いくら心が弱っていたとはいえ、倉橋永二に痴漢や下着泥棒をさせるとは、あだち充はなかなか鬼だ。百合にしてみれば、事情が判明し、またその後心を入れ替えたとはいえ、自分のお尻を触った人を、最後まで信用することはできないのではないか。新見克也にしてもだ。

「こいつ一人を育てるのにどれだけ苦労したか、おまえにはわかるまい!」
「だがお前はその苦労に耐えた。その根性は野球によって鍛えられたものではなかったか」

ここは何度読んでも感動するシーンである。

思うに、倉橋の父の失敗は、中学高校と野球ばかりやって、野球以外のお勉強をしなかったことが失敗だった。だから、野球は結構だが学校の勉強も最低限はすること、世の中の常識も学ぶこと、好成績を出しチヤホヤされてもいい気にならないこと、とすればよかったのだと思う。

唐沢はなかなかいい奴だと思うが、第二話以降は完全に三枚目になってしまったのが残念。



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