鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「狐のお嫁ちゃん」3

  • Batta「狐のお嫁ちゃん」3(みんなのコミック)

2018年8月25日刊。

バカっぷる夫婦のほのぼのギャグから、狩猟漫画へと舵を切った。

妹がそういう仕事を手伝っていて、漁師の師がいることは当初から描かれており、作者はその方面に興味があるのかなとは思っていたが、武器や狩猟の法規制の説明、資格を得るための勉強内容など、本格的な狩猟漫画と化してきた。

お嫁ちゃんがドジ踏んでぬしさまに怒られたり泣いたり甘えたりするシーンもそれなりにあるので、それはそれでいいのだが、とにかく解せないのは紙版とkindle版で表紙が異なることだ。紙版の表紙は内容をよく表していて違和感はない。が、kindle版はミスリードに誘うだけだ。3巻続いたことで制作者側の明確な意図を感じるが、表紙詐欺はやめてほしい。

紙版へのリンクも張っておく。一目瞭然だろう。


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「狐のお嫁ちゃん」2

  • Batta「狐のお嫁ちゃん」2(みんなのコミック)

2017年11月25日刊。内容は表紙のイメージとはかけ離れた、健全ほのぼのギャグである。

本巻での主要なイベントはお嫁ちゃんの実家訪問と発情期か。普通の人間には行かれない世界にお嫁ちゃんの「里」があったり、月経のサイクルが人間とは違ったりするのであるが、やはり「異種」という感じではない。基本はろまこめなので、違和感を持たない範囲に収めているのだろう。

本編は2/3程度で、残り1/3はサイドストーリー。ぬしさまの職場の同僚である笹山さんと田端さん、また妹の新芽ちゃんとその先輩のユリさんなど、周囲の人物に関するさまざまのエピソードが掲載されている。これが意外と面白い。特に笹山さんと田端さん、この二人が主人公の漫画でもそれはそれでイケたんじゃないかな。

紙版とkindle版では表紙が違うことに気づいた(1巻とも)。kindle版の方がぐっとセクシーである。なぜ変えたのか? そしてなぜ殊更にセクシーさを強調した絵にしたのか? たまたまではない理由があるような気がするが、今は気にしないでおこう。



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「狐のお嫁ちゃん」1

  • Batta「狐のお嫁ちゃん」1(みんなのコミック)

異種交配もの。最近はこういうものもジャンルを形成しているのだろうか?

「みんなのコミック」連載作品(2016年4月号~2021年4月)。単行本は2017年5月24日刊。

お嫁ちゃん(狐)とぬしさま(人間男性)の夫婦生活を描いた作品。

お嫁ちゃんはざっと以下のような特徴がある:

  • 人化の術に寄り完全な人に化けられる。だが耳と尻尾は出していた方が楽。家の中や地元では出しっぱなしのことが多いが、遠出の際は隠す
  • 人の姿になるには時間がかかる
  • 日本語を話せる。人間社会の習慣に熟知している
  • 元禄時代に生まれたらしく、推定年齢は330歳
  • 犬が大の苦手
  • ベーゴマが強い
  • 夜行性
  • 寂しがり屋

この世界の人は、狐の存在を誰もが認識しているようであり、人間と結婚することに疑問を感じている様子はない。ぬしさまの職場の人も家族も普通にお嫁ちゃんを受け入れている。

異種交配といっても、人間の女性と可愛いモフモフのペットを足したような存在というだけで、ほとんど違和感がない。人化の術は養女になったり胸を大きくしたりも自在にできるようだから、今日は北川景子今日は綾瀬はるかと変身してくれれば楽しめると思うが、そういうこともしない。「オバケのQ太郎」みたいに、「ちょっと変わった人が仲間にいる」という程度の存在にとどめている。

結局のところ、夫婦の日常のイチャコラを描いたもの、ということになるか。

珠玉の一品。「のぼうの城」

2008年度「ビッグコミックスピリッツ」掲載作品。単行本は2009年6月3日刊。

花咲アキラという漫画家は、同業者または漫画家を目指す人から、どのように見られているのであろうか。ご本人は自分の漫画家人生を、どのように振り返っているのだろうか。

美味しんぼ」という作品が空前の大ヒット、また30年以上にわたる異例の長期連載となり、単行本は1億3500万部を突破しているとか。下世話だが、単行本を一律500円とし、印税を5%として収入を計算してみると、ざっと34億円ほどになる。半分近く税金に取られているとしても、変な投資や投機に巻き込まれさえしなければ、一生お金の心配はしなくて済む額である。同作にて小学館漫画賞を受賞。漫画家としてこれ以上ないほど成功したわけであって、実にうらやましい、憧れの存在であるといえる。

しかし、実質的なデビュー作がヒット作になったため、花咲アキラの作品は「美味しんぼ」しかない。30数年漫画家をやって、世に出た作品が一作だけというのは、どのような気持ちであろうか。漫画家としてはいろいろな作品を描いてみたかったのではないだろうか。人気漫画の宿命で、作者の都合で勝手にやめられない。「ONE PIECE」の尾田栄一郎、「NARUTO」の岸本斉史、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の秋本治、「はじめの一歩」の森川ジョージなども同様だろうが、彼らと違い、「美味しんぼ」は雁屋哲の原作付きで、ともすれば「雁屋哲の作品」のように見られることもある。花咲の側に忸怩たる思いはないだろうか。

などと勝手に考えていたのだが、いろいろ調べてみたら、「美味しんぼ」以外に「のぼうの城」を描いていて、単行本が出ていることに気が付いた。さっそく購入して拝読。

美味しんぼ」で山岡と雄山が和解した(「ビッグコミックスピリッツ」2008年24号)あと、しばしの休載があり、2009年13号から連載が再開されている。その間に執筆したものと思われる。

改めて見ると、絵が実にしっかりしている。

美味しんぼ」を長く手掛けてあれほど多くの登場人物を描いてきたのだから、スターシステムを採用する手もあった(長親を山岡が、城代を大原社主が、長束を副部長が演じるといった具合に)。だがそうはせず、すべて新しいキャラクターを生み出した。にも拘わらず、長親、正木、柴崎、酒巻、三成、大谷吉継長束正家豊臣秀吉、かぞう、ちよ、ちどりなど、きちんと描き分けている上に、生き生きと動かしている。

実写映画に登場する人物を彷彿させる人もいて、イメージを寄せたのかと思ったが、実写映画より漫画の方が早い。映画の方がキャスティングや役作りに際して漫画を参考にしたのだろうか?(野村萬斎上地雄輔なんて、漫画そっくりでしょ)

話のまとめ方もうまい。原作未読だが、実写映画を見た印象からすれば、単行本一冊にまとめるのは尺が短く、下手をすると粗筋を追いかけただけになりかねないところだが、そうはなっていない。甲斐姫を泥で汚すことで土足の百姓を城に上げたり、ちどりが握り飯を兵に配ったりするシーンもきちんと描かれている。怒涛の水流が城を飲み込むシーンは、さすがに映画の迫力には負けるが、最後の和平交渉の駆け引きはなかなかのもの。兵糧の持ち出しにはあれほど熱心に食い下がったのに、甲斐姫を秀吉の側室に差し出すようにとの命に対してはあっさり呑み、甲斐姫が悔し涙にくれる場面も、印象に残る。

美味しんぼ」は2014年をもって休載状態にある。雁屋哲の年齢を考えれば再開はないだろう。今こそ花咲アキラは好きな作品を描けるタイミングだが、作品を発表している様子はない。率直なところ、「美味しんぼ」の最後の方はだいぶ画力も衰えていた。だからこそ、作者の最も脂の乗った時期に、「美味しんぼ」以外の作品を残せたのは本当によかったと思う。



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「君の心に火がついて」(新刊)

  • ツルリンゴスター「君の心に火がついて」(KADOKAWA

WEBメディア「DRESS」連載作品。2022年5月26日刊。

個人的に、今年の上半期に発売されたコミックスの中でベスト1に推したい作品。

帯に記されている内容紹介を転記する:

私の心を閉じ込めていたのは“無自覚の私”だった――
夫婦のすれ違い、男女の恋愛に違和感を持つ女子高生、60歳からの新しい恋、男子学生のメイクなど、「常識から外れてしまうから……」「大切な人をこれ以上傷つけないために……」「私が我慢すれば……」と、自分の気持ちに蓋をしてきた主人公たち。そこへ、人間の心に灯る“火”を食べて生きる妖怪・焔(ほむら)が突然現われては、心の中の火種を見つけ、絶やさず変化を生み出していく8つの物語。

第一話は以前ネットで読んだことがあった。その時にちょっと衝撃を受け、本になったら買いたいと思っていた。それが一冊にまとまって発売されたことを知り、さっそく購入して読んでみたわけだが、8話+αがまとまってきたので、衝撃も強かった。

第一話を読んだ時には、視点はいいが、これで終わりは物足りない、このあとが大事じゃないかと思った。第二話はまたがらりと変わって、これも面白い視点だが、主人公の翔のことは一応これでケリがついたとしても、麗香のことはどうなったんだ、尻切れ蜻蛉じゃないか、と少し不満に思った。

大丈夫、実はそのあとの話でちゃんと続きが描かれる。さらに、これは単行本描き下ろしなのだと思うが、それぞれの「その後の話」も描かれ、深い満足感が得られる。

内容については敢えて触れないことにする。他人事だと思って読めば、こいつ、厭な奴、とか、この人かわいそう、とか、ただそれだけの話なのだが、これは個人の話であると同時に社会の構造にも直結していること。そうなると、自分もまた加害者の一人であるかも知れないわけで、そこを考えるとひとことでは済まなくなるから。

そういう深い社会問題を提起していることがこの作品のひとつの意義ではあるのだけれど、ただそれを投げ出すのではなく、ちゃんとエンターテイメントに昇華している点がすごいと思うのだ。



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「うちの会社の小さい先輩の話」1

  • 斎創「うちの会社の小さい先輩の話」1(バンブーコミックス)

2020年10月30日刊。同じタイトルで「同人版」というものもある。どう違うのかはわからないが、同じ世界の別作品という位置づけらしい。

OLの片瀬詩織里は篠崎拓馬という後輩ができたのが嬉しくて、張り切って指導をする。背が小さく、美形で巨乳。色っぽい体つきとは裏腹に、天然で、素直で、恥ずかしがり屋である。篠崎も内気で奥手なため、お互いに好意を持っているのに、二人の仲は全然進まず、中学生のようにキャッキャッしている。

そんな二人を生暖かく見守る主任の秋那千尋と、彼に好意を持つ篠崎の同期生の早川千夏、この4人で話が進んでいく。基本は一話4ページのショートコメディ。

大人の男女が会えば必ずセックスするわけではないし、他愛のない話で盛り上がっている健全カップルの恋バナは、それはそれで嫌いではない。ただ、主人公の造詣がこれというのは、アイキャッチ&ギャップ萌えを狙ってのことかと想像するが、少々あざとい。

こんなに可愛ければ、これまで告白されたこともあっただろう。性的興味の対象にされたこともあっただろう。そういう経験があれば、その分野のこともそれなりにわかってくるはず。ここまで「何も知りません」風な態度は解せない。

一方、主任と早川が実にいい味を出している。正直、この二人の話(だけ)がもっと読みたいくらい。ただ、この二人はまだ付き合っているわけではなく、あくまで篠崎を介しての縁だから、二人だけの話にはならないのだが。

当初、全1巻と思い込んで購入したが、現時点で4巻まで刊行されており、しかもまだ完結はしていないようだ。続けて買うかどうかは思案中。

片瀬は猫耳でしっぽがあるが、本当にあるのではなく、可愛さを強調したイメージ表現のようだ。



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WE ARE SPACE BROTHERS PIECE OF CAKE「宇宙兄弟」41(新刊)

発売日に入手してすぐ読んだ。

宇宙兄弟」のタイトルも回収した。「It's a piece of cake.」も最高のタイミングで言えた。ムッタとヒビトが再会。カルロム洞窟の探検というミッションを兄弟で担当し、水を発見(したかも知れない)。シャロン月面天文台の設置に加えて洞窟の発見、さらに水を発見したとなると、彼らはアクシデントに関わらず、歴史的な成果を挙げたのではないか。これ以上のトラブルはいいから、無事に月から帰ってきてほしい。ムッタが月へ行ったのは25巻だから、既に月面生活は7年になる。そろそろ終わらせてよいのではないか。



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