鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「JJM 女子柔道部物語」13(新刊)

  • 小林まこと「JJM 女子柔道部物語」13(イブニングコミックス)

発売日に入手。

安定の面白さ、うまさではあるが、話が淡々と進んでいて、畳みかけるような展開がない。週刊連載ではなく、月二回刊の雑誌連載だから、もともとスローペースなのであるが、強化合宿に参加した話など必要だったのだろうか。この合宿で誰かと知り合ったとか、強く印象に残る出来事があったというわけではない。全日本ジュニア強化選手に指定された、ということ自体がすごいことなのではあろうが。

さわやかホープ賞の受賞も、12巻から出てきて、えもが受賞するんだろうなと思ったが、飛行機の時間が迫っているからまだ大会が終わっていないのに賞品をもらったというエピソードで終わるのでは面白くない。音羽海上とはこれをきっかけに縁ができるのだろうか。

笹沢千津のエピソードも、ただでさえ話が進んでいないのに、他校の生徒の家族を登場させ、ていねいに描く意味があったのか。それなら二瓶幸子や才木和泉などの方が知りたい。笹沢が今後のキーマンになるのだろうか?

本巻で唯一おやと思ったのは、一所懸命やっていない(ように見える)藤堂美穂に対してえもと有本直美が怒りをぶつけるシーンだが、次の話でいきなり藤堂がえもや有本の倍の練習をこなす場面に。ここはあまり掘り下げず、藤堂が発奮して終わりとするらしい。

まあ、全日本体重別や皇后杯は、えも(や藤堂)個人の参戦で、カムイ南校の話ではないから、盛り上がりに欠けるのも致し方ない。14巻のインターハイに期待だ。



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「将棋の渡辺くん」6(新刊)

待望の6巻である。ずっと待っていたのだが、先月に発売されていたとは全く知らなかった。

本巻は(期待通り)藤井くんの話が各所で触れられている。

藤井くんの初タイトルにも大きく貢献した渡辺くんであるが、意外と気落ちした様子がなく、安心した。「(タイトルを取られたのも)タイトルを持っていればこそ」「(藤井くんと争ったことによって)有名になった」などとポジティブにとらえている様子が楽しい。漫画の中だけかも知れないが。

とはいえ2020年8月には名人位を獲得し、現在もタイトルを維持しているのである。将棋界の第一人者なのである。すごい人なのである。

なお、「そろそろ終わる」と前巻だったかでほのめかされていたが、まだまだ連載は続くようだ。伊奈さんは寡作ではあるが、絵も、話のまとめ方もうまいと思うので、ぜひ続けてほしい。それにしても伊奈さんももう41歳かあ。



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「マイ国家」

野暮を承知で表題作にマジレスしてみる。

国家の三要素は国民・領土・主権で、作中でマイ国の首脳は三番目を「政府」というが、まあ同じことだろう。この三つがあれば国家として認められる(可能性がある)が、誰に認められるのかといえば「他国」である。現在世界には200弱の国があるが、独立国家としてやっていきたいのであれば、独立宣言をし、これらの国々に国家であることを認めてもらわなければならない。これが得られなければ、残念ながら国家たりえない。たとえば台湾(中華民国)を国だと認める国は、世界で20か国くらいしかない。だから多くの場面で国として扱われない。

マイ国はそもそも世界に独立宣言をしたのだろうか。したのであれば、つかまえた男の身分照会に外務省に電話するのも筋が通るが、そうであれば、外務省の対応も変わっていたであろう。そもそも、日本国となんらかの悶着が生じ、こんなにのんびりと過ごすことはとてもできないはず。間違いなく、対外的には何も活動していないのだ。それでいて家に来た人間に、理屈をこねて示威行為を取るのはうなずけない。

本作の発表は1975年ごろ。北杜夫マンボウ・マブゼ共和国を設立したのは1981年だが、恐らくこの作品が頭にあったのだろうと思われる。マンボウ・マブゼ共和国の設立にあたって、星新一が「文化の日があった方がいい」とか、いろいろとアドバイスをした由。マンボウ・マブゼ共和国の国民は一人ではなかったはずだが、元首が亡くなられて、恐らく消滅したのであろう。斎藤由香が二代目元首を名乗ってもいいんですよ?



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「おのぞみの結末」

「ボッコちゃん」は50編、「ようこそ地球さん」は42編、「ボンボンと悪夢」は36編、「悪魔のいる天国」も36編収録されているが、本作は11編。星新一的には非常に少ない。ショートショートショートとでも呼びたくなるような超短編がなく、長さが揃っている。恐らくどこかの月刊誌に連載された作品、とかではないだろうか。

「あの男この病気」が印象に残る。これ、追う立場と追われる立場と順序が逆の方がいいのではないだろうか。せっかく追う立場をクリアして、追われる立場になったのに、追いかけてくれる人がいなかったら宙に浮いてしまう。しかし、先に追われる立場となると、命の危険がないだけに、真剣にやらない人もいて、目標のクリアが簡単過ぎることになりかねないから、これでいいのかな。

「侵入者との会話」は、いくらこれから殺すからといっても、登場人物がペラペラしゃべり過ぎる。そのしっぺ返しを受けただけ。もっとも、これは本作に限らず、多くの小説や漫画などで思うことだ。読者に対する説明という役割があるから、難しいところなのだろうが。

「現実」は、恐ろしい話だ。こんなことはあり得ない、とは一笑に付せない。あってもおかしくないような気になる。そして、あったら楽しいだろうな、とも思ってしまう。

「わが子のために」何の証拠もないのに、信用し過ぎ。

「要求」皮肉が効いている。



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「悪魔のいる天国」

読んだことのある話があるなあと強烈な既視感があった。星新一の小説は若き日に一度は(あるいは、二度三度)読んでいるから、覚えがあるのはおかしくないが、そんな遠い昔の話ではなく、つい最近のことである。不思議だなあと思ったら、「ボッコちゃん」重複が六編あるのだそうだ。あとがきにそうあるから、当時から気づいていたもよさそうだが、全く知らなかった。まあ、全36編だから六編程度の重複はどうということはない。

本作で最も印象に残るのは「情熱」である。遠い星まで調査に行くにあたり、長い年月がかかるため、一代ではとてもたどり着けないから、子を産み、その子がまた子を産み、三代かけてたどりつこうという計画である。最初に乗り込む宇宙飛行士は男女二人ずつの四人。

子ども心にタッタ四人で大丈夫なのかと思った。確実に子供ができるのか、また、男一人女一人という具合に都合よくいくものか、生まれた子供が宇宙飛行士に適している保証は、そもそも宇宙で生まれ、親以外に誰も人のいない閉鎖空間で精神が正常に育つものなのか、三代かけてたどりつくのであれば、恐らく数百人が乗り込まないとダメだろう……。

初代はある年齢までは生まれた星で普通に育った。三代目は目的の星に到着し、新たな局面を迎えた。それが筆舌に尽くしがたいほど過酷である可能性もあるが、さいわい、物語ではその星の人たちは科学文明も発達し、友好的であった。悲惨なのは二代目である。狭い宇宙船で生まれ、宇宙船で死んでいく。四人の親たちと、配偶者、そしてたった一人の子ども以外、誰とも触れ合うことのない人生。これほど空しく、残酷なことがあろうか。考えてみると恐ろしい話だ。



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「ヴァイブス 知らねば仏、見ぬが秘事」1~6

  • 断華ナオキ「ヴァイブス 知らねば仏、見ぬが秘事」1~6

一冊に一話収録の短話版。既に17巻まで出ているので、そろそろ通常の単行本が出てほしい。とりあえず6巻まででエピソードが3つ、ここで一つの区切りとする。

少なくない費用を支払うと、特定した相手の「今」を見ることができる、というシステムを利用する人を描いたもので、「走馬灯株式会社」のフォロー作品と位置付けられるのではないかと思う。さらに言えば「笑ゥせぇるすまん」のフォロー作品であり、さらにいえばお伽噺の三つの願いをかなえてくれる悪魔の話のフォロー作品である。

走馬灯株式会社」では自分がかつて見たものを再度見るというもので、途中から他人の目が見たものも(本人の承諾なく)見られるようになってちょっとタガが外れた感があったが、本作は最初から「他人を見る」もの。もちろん、どういう技術でそれが可能なのか、フロントは「走馬灯株式会社」同様、妙齢の美女が務めるが、黒幕がどういう人物(組織)なのか、については(今のところ)明かされない。

そしてこれまでの作品同様、このシステムを使って他人の今を覗き見た人は(今のところ)誰一人幸せにならない。ま、そこがいいのだが。

絵柄が「リセット~不倫の代償~」に似ていると思ったが、こちらの作者は成田マナブで別人だった。

通常の単行本が出たら続きを買いたいが、短話版をこれ以上増やしたくない。

なお「ヴァイブス」はvibesのことだろう。英辞郎によると「〔人・場所・状況などを見て生じる〕感情[気持ち]、〔雰囲気などから起きる〕感情」とある。知恵蔵によれば「いいバイブス(いい雰囲気、ノリがいい)、バイブス上がってきた(気分が高揚してきた)といったように使われる」とのことである。へー。



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「マヨイトスピカ」

  • 宵町めめ「マヨイトスピカ」

「拡声のスピカ」「マヨイト」の二編を収録した初期短編集。「マヨイト」はデビュー作。「拡声のスピカ」は商業読み切りとしては四作目。

2019年11月刊、発行はくらやみ横丁。電子版は2020年1月、発行はナンバーナイン。表紙・裏表紙も含めて全64ページの薄い本。

商業誌に掲載された作品なので、当然その出版社から出た単行本かと思いきや、同人誌として出したものなのだそうである。吹き出しのフォントは権利上使えないため、新たに打ち直したのだとか。出版社はいったい何をやっているのか? と少々憤りを感じている。こうなったらぜひ、少しでも売れて出版社を見返してほしいものである。

初出一覧

タイトル 掲載誌
拡声のスピカ 月刊コミックREX 2014年6月号
マヨイト 月刊コミックREX 2013年3月号



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