鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「マジで付き合う15分前」5~6(完結)

2023年3月3日刊。

本編は大学に合格するまで。葛藤があり、悩みがあり、でもそれを正直に相手に伝えることで解決し、乗り越え、ここまで来た。最終話で話は一気に流れ、結婚して子供が生まれる未来をちょっとだけ見せて終わり。

遠距離恋愛は自分にも経験があるが、関係を維持するのは想像以上に難しいもの。が、そこはすっとばして、きちんと結ばれる未来を示したのは、ちょっと「高木さん」を連想させるが、うまいやり方だと思う。

なお、奈央も宗助に告白した。今くいった模様。みんな幸せで何より。

そして電子版描きおろしでは、二人の初体験が描かれる。そうこなくっちゃ! ただ、翌朝の祐希がやけに紳士的だったのは気になった。高校三年生が、好きな人と初めて結ばれたら、理性のタガは吹っ飛んで猿になってしまうとワタシは思いマス! こんなに落ち着いていられるハズがない! 

しかし、幸せそうだから許す。いい話を読ませてもらった。

「茶番劇」

2019年9月1日刊。連作短編集。「漫才雨譚」「茶番劇」「飛んで火にいる夏の虫」「猛毒が目にしみる」の四編収録。最初の三作は漫才コンビ「おやこどんぶり」(千住珠子&鳥居柚子)、最後の一作は漫才コンビ「アンドボンド」(安倍碧&巽奏)が主人公だが、同じ世界線であり珠子、柚子も登場する。

GLではあるが、どちらかというと、漫才という過酷な世界でプロになること、生き残っていくこと、また、相方とのコンビネーションなどの厳しさが十全に描かれている。そこにさらに「相方が好き」という気持ちがかぶさる。

気持ちだけでやっていける世界ではないだろうが、気持ちがあるからこそやっていける。そんな気にさせられる。

最終話のラスト、真っ黒のページに心臓の鼓動だけが響いているシーンが好きだ。



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「北斗の拳 世紀末ドラマ撮影伝」4(新刊)

  • 倉尾宏「北斗の拳 世紀末ドラマ撮影伝」4(ゼノンコミックス)

2023年5月19日刊。

ジャギを倒し、北斗兄弟編はいよいよ佳境へ。次はトキ。トキはギャギと違い、ケンシロウと後継者争いをしたほどの腕前であり、その残虐さも一桁上。つまりわれわれがアミバとして知る人物は、もともとトキとして描かれていた。ところがトキ役の役者の事務所から、殺さず準レギュラーとしてこのあとも出演させ続けてほしいと言われてしまったため、現場は大騒ぎになる。いろいろな力関係から、この「お願い」には逆らえない。

結果、この人物はトキに成りすましたアミバだということになり、本物のトキは善人でケンシロウに味方する人物ということになった。レイが「トキではなく、アミバだ」と正体をバラした途端に弱くなり、それまで歯が立たなかったはずのケンシロウが圧倒するようになることや、トキであることを示す証拠だったはずの背中の傷や、若い頃の修業時代の記憶などは、「天才アミバ異世界覇王伝説」で茶化されているが、本作では急遽設定が変わったためだと説明されることになる。

原作には様々な矛盾があるが、そうした矛盾を生んでしまう「背景」は、実はこうした事情があったのではないか? とする設定が見事である。「北斗の拳」には実に多くのスピンオフ作品、パロディ作品があるが、その中でも群を抜いて優れている。

これまで全く名が出てこなかったラオウが、この時以降、緻密に描かれるようになったのは、ケンシロウと後継者争いをしたほどのトキがケンシロウと組んでラオウに向かうのだとしたら、ラオウは相応の人物でなければいけない、という判断だったという。

一子相伝と言いながら、ケンシロウが正式に伝承者になったあとも、ラオウ、トキが無事であった理由についても、説明されるかな~。



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「アオイホノオ」28(新刊)

2023年5月18日刊。

ついに初の単行本「風の戦士ダン」の1巻が発売される。

尾東君子はしばらく登場がないが、本巻では二人の美女がホノオのまわりを彩る。

樺上さんは、同業者だがペンネームは不明、ホノオのファンらしく、頻繁に電話をかけてきて、またデートに誘う。取材目的といいながら、二人で同伴喫茶に入りたいと言い出すなど、ホノオの心を惑わせる。ホノオのことが好きだというわけではなさそうだが、真意は不明。

もう一人はマウント武士。これはペンネームで本名は不明。ホノオが初めて専属で雇ったアシスタント。ホノオをライバル視する漫画家の卵で、負けん気が強く、好戦的というか挑発的な物言いをするが、実は誰よりもホノオ思い。まあホノオの言動はとてもシンプルなので、それをすぐに理解し、ホノオの望むことを察して動いているというだけではあるが、この程度のことをしてくれる人が、作中には他に登場しない。三上さんも理解しているか……? でも三上さんはホノオの望むようには動かないしな。

美味しんぼ」の連載が始まる。花咲アキラの絵を見たホノオがショックを受けるシーンが面白かった。私は本作を読んだ時、登場人物を文字で説明する手法が気に入らない(こういう紹介の仕方だと名前が覚えられない)と感じたのだが、ホノオは「キャラクターが生き生きと動いている」「映画のワンシーンのよう」だと受け取ったようだ。中でも「水に演技を指せている」というくだりは衝撃的。映画やドラマでは犬や猫に演技を指せることはあるが、さすがに水には演技をさせられない。漫画では水に演技をさせることがあるのか!



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「明けても暮れても」

  • りおん「明けても暮れても」

2020年8月31日刊。2019年8月に発行した同人誌の電子版。いわゆるGL。

同期入社で10年、すっかりベテランOLになった小野寺と結城。あまり立ち入った話をすることもなく、10年間敬語を使って来たが、小野寺が退職することになり、送別会の二次会で初めて二人でサシのみをすることに。かろうじて終電には間に合ったはずが、うっかり眠ってしまい……

「小野寺さん」「結城さん」と呼び合っていた二人が、最後のシーンでは「菫」「あずささん」と名前呼びになっていたのがとても良かった。「あなたのいる日常を愛している」という気持ちは、相手が男でも女でも同じだろう。



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「身も蓋もどこにもない。」

  • りおん「身も蓋もどこにもない。」

2020年8月31日刊。2019年11月に発行した同人誌の電子版。いわゆるGL。

三森は学生時代の友人・二里(ふたさと)と毎月飲みに行く間柄だが、実はとても好き。ある日、ついそれを声に出して言ってしまい……

お互いに憎からず思っていて仲のいい相手に対して、好きだという気持ちを口にしてしまった時のあの恥ずかしさとか、身の置き所のなさとか、そういう気持ちが細かく描かれていて、わかる、と思う。

女同士であることで、あるところまでは比較的簡単に仲良くなれるが、そこから先は大きな壁がある中を、「ずっと一緒にいたい」という気持ちで乗り越えようとする姿勢が尊い



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「うちの大家族」1

  • 重野なおき「うちの大家族」1(アクションコミックス)

2004年10月29日刊。

作品自体は「まんがタウンオリジナル」で2002~2006年、「まんがタウン」で2005~2018年、「コミックハイ!」で2006~2011年に連載された。単行本は全15巻。

千葉に住む内野家は、父親と男三人・女五人・犬一匹の大家族。母親亡きあと、長女の愛子は大学を中退し、彼とも別れ、母親代わりになって家事に精を出し家族の面倒を見る……。

ひとつひとつの話は面白いのだけど、愛子は完全にヤングケアラーでしょう。母親亡きあと、家族の世話をどうするのか、父親が真剣に考えなければいけないのに、愛子に丸投げしている姿勢は疑問に感じるし、長男がミュージシャンを目指すといって定職に就かず、家に生活費を入れないのも、いったい何を考えているのかと思うし、次男も次女も高校生なのに家の用事を手伝わない。

愛子自身はそれを問題だとは思っておらず、嬉々として家事をこなしているのだが、読者としては、こういう話は笑えない。

秋月りすの「かしましハウス」も、人数はぐっと減って四人姉妹ではあるが、母親が死んで長女が家事を一切担っている設定は同じ。が、こちらはそういう不愉快さはない。次女は働いていて、恐らく家に生活費を入れている、三女は大学生で、「子育て」の時期は過ぎている、四女は小学生で世話が必要だが、精神年齢は四人の中で一番上、というあたりがうまく功を奏していると思われる。



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