鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ゴルゴ13」3

内容

雑感

狙撃のGT

常人では不可能な極めて難易度の高い狙撃をゴルゴがいかに成し遂げるかという話。毎回のようにゴルゴの超人技が描かれるものの、そこを真正面から描いた作品がそれほど多いわけではないが、狙撃手の物語なので、このタイプの話がやはり王道というべきだろう。

ターゲットを狙撃できるのは乗車した列車がトンネルを出た箇所のみ。隣接する道路を並走する自動車から狙撃するしかないが、時速100km近いスピードで走る自動車から列車を狙うこと自体難しい上に、ターゲットは防弾ガラスで守られた個室(コンパートメント)にいるため、そこを突破する必要がある。湯を沸かすためのポットを触るとしびれるようにしておき、ターゲットが声を上げて、廊下に控える護衛の人間がドアを開けた瞬間を狙うという作戦で、針の穴の可能性を求めてタイミングを誘導するところも見どころである。手に汗を握る佳作。

なお、部屋に泊まる時に依頼者からコールガールが提供されるがゴルゴは辞退する。「隙が生まれるから」ではないかと依頼者側は推測するが、確かに隙だらけになるであろうが、ゴルゴが女の誘いを断わるのは非常に珍しい。実際、その後依頼者側のメンバーの一人が部屋を訪ねていくとさっさとコトに及んでいる。今回に限り致さなかった理由は謎。

駅馬車の通った町

孤立した小さな町(鉄道が二日に一本通るだけ)で無法者たちが好き勝手に振舞っているが誰も逆らえない。ゴルゴも一件従順に従っているようだが、出発しようとしたゴルゴを無法者の一人が阻止しようとした瞬間に、皆殺しにされる。

そもそもゴルゴがなぜこの町に立ち寄ったのか謎(移動手段のない土地に足を踏み入れるべきではない。前巻の「ブービートラップ」に描かれたように狙われたら危ない)。大勢の前で人を殺すが気にしていないのも謎。正当防衛が成立すると踏んでのことか。しかし相手の銃を奪い取って使ったならともかく、自前でライフルを持ち歩いているのを見られたのはかなりまずいと思うのだが。

メランコリー・夏

恋愛もの。その女はターゲットが逃げるのに利用しただけだと主張する依頼者に対し、ゴルゴは惚れていたはずだと確信して女を執拗に見張り続け、戻ってきたターゲットを始末する。自らは恋愛感情とは縁のなさそうなゴルゴが、他人の恋愛感情に深い理解を示しているところが面白い。珍しいストーリー。

猟官バニング

ゴルゴを追い続けて来た刑事バニングスが、ゴルゴを捕まえるためには刑事を辞めるしかないと、辞表を提出した上でゴルゴを追う話。最後まで刑事でありたいと思いつつ、そのためには辞めなければいけないと考えるところが面白い。ビリイ・コーナンに扮した男を撃ったのは誰なんだろう? ゴルゴを撃とうとした流れ弾が当たってしまったということか?

ベイルートVIA

CIAのフーバー、KGBのキニスニー、MI6のヒューム、フランス情報部のオマイリー、そして修道女の5人がパレスチナゲリラの主導者を始末する依頼をゴルゴにする。依頼を遂行する行動そのものも面白いが、修道女の正体が謎。ターゲットが最後に虫(インセクト)と呟いてこと切れる。

最後の間諜-虫(インセクト)-

ゴルゴに初めて立ちふさがった巨大な壁。「ゴルゴ in 砂嵐」および「ベイルートVIA」の伏線回収。伏線を張ってから回収までの距離(の短さ)と、この時点でのラスボスの登場のタイミング(の早さ)を考えると、「ゴルゴ13」はこの時点では全5巻くらいの構想ではなかったかと思われる。

虫の正体を突き止めるために、ゴルゴは「おれは、すべてを賭ける……生きてきたすべてと、これから生きるであろうすべてを……」とつぶやく。これほど感情的になるのはあとにも先にもこの時だけと思われる。

準備のためにエージェントに600万ドルを支払う。この作品が描かれたのは1969年だから、1ドルは360円。日本円にして21億円だ。これがこの時点でのゴルゴのほぼ全財産と思われる。一回の仕事で安くても3万ドル(1080万円)くらい、前回の「ベイルートVIA」では50万ドル(1億8000万円)を稼ぐゴルゴにしてはそんなもん? という気もするが、報酬が丸々利益になるわけではない(「狙撃のGT」では銃の手配に2万ドルかけていた)。まだ30歳前後のゴルゴなら十分多いともいえる。


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