鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「サルビアの記憶」

2006年11月15日刊。短編集。

すべて恋愛譚ばかりでスポーツをテーマにしたものが一遍もない。いささか驚いた。海老沢泰久の恋愛小説はこれまで何度も読んだことはあったが、すべてスポーツが絡んでいるものばかりだったからだ。

冒頭の作品はいきなり不倫。不倫というか、銀座のアルバイトホステスを口説いて深い関係になったものの、あっという間に飽きてしまい、好意を寄せて来る相手にうんざりしてしまう話。知らんがな。

「服を着て、そして帰って」も不倫の話、「サルビアの記憶」はこれから不倫をしますという話。海老沢泰久ってこんな作家だったっけ?

「森の中で」は異色。中学生の萩原行彦は井上恵と付き合っている。恵の部活の終わる時刻に合わせて待ち合わせ、一緒に帰るつもりだった。しばらく待っても恵は来なかったが、部活が延びることもあるだろうと、彼女が来るまで待っているつもりだった。しかし1時間半以上待っても来ず、ついに諦めて帰宅する。実は恵は部活が延びてしまい、時間に遅れたから行彦はもう待っていないだろうと、約束の場所へ行かずに真直ぐ帰宅してしまったのだ。

携帯のない時代の話と言ってしまえばそれまでだが、こういうすれ違いは経験がある。要は、こちらはどれだけ待っても彼女に会いたい、彼女と一緒に帰りたいと思っているのに、相手はそう思ってはくれなかったということだ。切ないよねえ。そういう場合はどうしればよかったとか、謝ればこうとかいうことではないのだ。本作では行彦がイライラを恵にぶつけ、恵は自分が悪かったからとそれを受け止める話になっているが、普通なら、文句を言うだけ嫌われるパターンではないだろうか。

初出一覧

タイトル 掲載誌 日付
時限爆弾 オール讀物 2005年8月号
クラス会の通知 オール讀物 2005年5月号
森の中で オール讀物 1997年2月号
春の日のヘレンド オール讀物 1995年2月号
完全な世界 別冊文藝春秋 1996年214月号
服を着て、そして帰って オール讀物 2000年3月号
サルビアの記憶 オール讀物 2002年2月号


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