鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「さまよえる脳髄」

  • 逢坂剛「さまよえる脳髄」(新潮社)

1988年10月25日刊。

20年くらい前、逢坂剛の小説を読み漁っていた頃、本作も読んだはずだが、全く覚えがなかった。だからこそ、サスペンスフルで最後まで楽しめたが、登場人物の数が多過ぎて覚えきれず、少々辛かった。

それはそれとして、本筋からは離れるが、とても驚いたことがある。それは、本作に登場する精神神経科医が、ホモセクシュアルは精神異常であり、適切な治療を受ければ治る、と述べていたことだ。その医師は主人公であり、優秀であり、またフェアな人物であるということになっている。また、作者の逢坂剛も自分の知る限り差別的な人物ではないし、殊更に思想的に偏っていると感じたこともない。

本作を書くために精神医学などを相当に勉強したと思われるので、要は、1980年代においては、素人考えではなく、専門医ですら、そのような認識でいたということなのだろう。わずか40年ほど前なだけである。恐ろしい話だ。もっとも、令和の世でもそのように考えている人が少なくないようだが、少なくとも専門家でそう考える人はいないだろうと思う。