鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「いつの空にも星が出ていた」

単行本は2020年10月27日刊。短編集。「レフトスタンド」「パレード」「ストラックアウト」「ダブルヘッダー」所収。

作者は初めて聞く名前。タイトルから、恋愛小説か何かか……? と漠然と想像。図書館で洒落た装丁に惹かれて手に取り、読んでみる気になった。内容は想像とは全く異なっていた。

「レフトスタンド」は冴えない高校教師の話、「パレード」は10代から20代になった少女の成長物語、「ストラックアウト」は町の電器屋の真面目な跡取り青年と、お得意さんの軽薄な息子との不思議な友情物語、「ダブルヘッダー」は一度は切れてしまった家族のつながりを取り戻す話。どれもハードウォーミングな物語だとはいえるが、テーマも登場人物も相互に関係はない。

ただし、どの話にも、横浜ベイスターズ大洋ホエールズ)の熱烈なファンが登場する。なるほど表紙は横浜スタジアムだ。これを見て何事かを感じなければいけなかったのだ。

野球を応援する話がメインではないが、話の展開に切っても切れない部分でもある。恐らく、作者自身が熱心なファンなのだろう。登場人物が試合観戦をする描写は、きっと作者もこの試合をスタジアムで見ていたんだろうな、と思う。

ダブルヘッダー」は、主人公は小学生で、川崎に、両親と、母方の祖母と四人で住んでいる。実は父方の祖父はまだ生きているのだが、父は、主人公が生れる前に縁を切ったという。が、いろいろあって、主人公は下関に住んでいる祖父に一人で会いに行く。そして一日を過ごした主人公は「おじいちゃん」と話しかける。

ハマスタにおいでよ」「ハマスタで、一緒に野球、観よう」

読み返しても涙が出て来るシーンだ。「また会いたい」とか「お父さんと仲直りして」ではない。「ハマスタで、一緒に野球、観よう」なのだ。それが成立するよう、時間をかけて、主人公が、主人公の父が、そしてこの祖父が、いかにベイスターズのファンであるかを延々と描いているからこそ成立するセリフなのだ。ベイスターズのファンではない自分だって、こんなこと言われたら「うん、必ず行くよ」と約束してしまいそうだ。もっとも、この祖父はそうは言わないのだけれど。



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