鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「透明人間の納屋」

2003年7月31日刊。書き下ろし。「ミステリーランド」第一回配本。

物語は「ヨウちゃん」の一人称で語られる。ヨウちゃんは9歳、母子家庭で兄弟はいない。母は夜の仕事をしていた。隣人の「真鍋さん」はそんなヨウちゃんのことを気遣ってくれて、話相手になり、様々なことを教えてくれ、夕食をご馳走してくれたりする。主人公のことを子ども扱いせず、どんな質問にも誠実に答えてくれる。友人もいない、母親とも朝食の時に顔を合わせるだけの孤独なヨウちゃんにとって、真鍋はたった一人の信頼を置く能わざる大人である。

ヨウちゃんの母親は千鶴。いつも不機嫌で感情的だが、真鍋がいる時はニコニコしている。

辛島真由美が登場。真鍋の幼なじみだが、千鶴に対して敵意を露わにしており、真鍋は真由美を憎んでいる。と言いながら、真由美は篠崎という人と結婚する予定になっているが、その結婚に反対するなど、矛盾した感情を露呈している(本当に真由美のことを嫌っているなら、誰と結婚しようが放っておけばいいのだ)。

という、ほのぼの、あるいはぎすぎすした人間関係の描写で三分の一が進む。

真鍋が主人公に透明人間について教える場面がある。透明人間は存在する、薬を飲めば透明人間になれるとか、そうすると長生きはできないとか、海で溺れて死ぬとか。この時点では子ども向けにわざとそうした話をしているのかと思ったが、あとになって真鍋さんが「透明人間になる薬」を作っていたことがわかる。作業に失敗して左手の手首から先が透明になってしまったと、透明の手で物をつかんで見せる。この世界は透明人間が存在するらしい。本作はミステリーだと思ったが、オカルトSFなのか?

その後、辛島真由美が消失する事件が起きる。婚約者とホテルに泊まったが、お鮨を食べている途中で忽然と姿が消えた。ドアの前では従業員が数時間にわたって作業中だったから、出入りがあれば気づかないわけがない。数日後、真由美の死体が発見されるが、真相は謎のまま。ヨウちゃんは、真鍋が薬を使って真由美を透明人間化して部屋から運び出し、殺したのだろうと判断。真鍋と絶縁する。真鍋は愕然とし、一人で日本を去る……

その後、物語は急展開する。オカルトではなく至極真っ当なミステリーだったが、全く以てアッと驚く真相があった。とはいえ「透明人間」というのは比喩的な意味ではなかなか示唆的。真鍋の心情を思うと切ないが、結果的には、真鍋とは長く付き合わなくてよかったとも言える。

それにしても、真鍋が千鶴と抱き合い、千鶴のスカートをまくって下着に触っているのを目撃した主人公が、女の子のスカートをめくるなんて悪い奴! と真鍋を敵視するところが興味深い。スカートをめくられたり、触られたりして喜ぶ女がいるなんて、小学生には想像できないよね。

傑作だけど、本作は真面目なミステリーである……と最初の段階で確信できるような仕掛けを講じておいてほしかった。オカルトものだったら読むのをやめようかと思ったのだ。



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