鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「弁護士探偵物語」

2012年1月24日刊。第10回「このミステリーがすごい!」大賞作品。

弁護士が殺人事件に巻き込まれ、自力で真犯人にたどり着く話。タイトル通り「弁護士が探偵」役を務めるミステリーだが、文体に強烈な癖がある。ハードボイルドのパロディになっているのだ。レイモンド・チャンドラー生島治郎も読んだことはないが、そうであることはわかる。

「流れを汲んでいる」ではなくパロディと断ずる所以は、主人公が精神的・肉体的に強靭であるかといえばそうは感じられないからだ。片意地を張るのを妥協しないというなら、そうかも知れないが。また、カッコつけのセリフはカッコよくて初めて生きる。主人公のセリフはいい年齢をして中二病真っ盛り感があり、全くカッコよくない。

単行本には「このミステリーがすごい!」の選評も全部掲載されていて興味深い。この文体を「くどい」とする選者が複数いた。確かにくどい。しかし、途中から病みつきになった。

別々の話かと思っていたことがつながっていることがわかった時は、ちょっと震える感があった。ただ、本筋とは関係ないとおもっていたため、登場人物の名前を憶えていなかった。こういう本は、扉の次に詳細な「登場人物一覧」がほしい。

魅力的な女性が探偵役弁護士のまわりに次々に現われるのは「お約束」なのかも知れないが、華やかでいい。その中に主人公の本命がいるのか、いないのか、一度は口説いたり、浮いた言葉を投げつけたりするくせに、すぐに悪態をつき始めるのはいただけない。ボス弁護士の秘書・京子は、最後まで主人公のことを心配していた。こういう人とくっついたらうまくいくのではと思ったり。病院のアルバイト、澤井佳耶などは、可愛くて健気で、もう少しやさしくしてあげてほしかった。彼女は主人公が本当は何をやっていたのかを知ったら、惚れてしまうのではないか……

トータルとしては面白く読んだ。ただし、どうしても気になるのが一ヵ所。事件の発端となった殺人事件では、二人が殺され、同じ部屋にいた男が殺人犯として逮捕されたが、警察が来た時に殺された人と同じ部屋にいたというだけで、なぜ犯人だとされるのかがさっぱりわからなかった。部屋は密室だったわけではない。男には被害者と顔見知りではあったが、動機が何もない。これで「犯人だと考えるのが当然」だと思う人はいないのではないか。警察はそこまでいい加減ではないだろう。

このミステリーがすごい!

現在まで21回を数えるミステリー専門の文学賞。過去の受賞作は、「チーム・バチスタの栄光」(海堂尊)、「さよならドビュッシー」(中山七里)、「元彼の遺言状」(新川帆立)など、ドラマや映画でよく知る作品もあるが、小説を読んだことがある作品が一作もない。今回は初めてである。しかしこの10回は、「隠し玉」として「公開処刑人 森のくまさん」が選ばれている。不思議な縁である。