- 石持浅海「殺し屋、やってます。」(文春文庫)
単行本は2017年1月刊、文庫本は2020年1月4日刊、連作短編集。七編所収。「オール読物」掲載作品。
紙の本は買わないことにしているが、本屋へ行ったら目について、好きな作家だし未読の作品だったため、衝動買いをした。正解だった。
ミステリー。最近はやりの「日常の謎」もの。殺し屋が主人公なので「日常」と言われると違和感があるが、そこが石持浅海なのだ。
富澤允はコンサルティング会社を経営しているが、なかなか収入は厳しい。そのため、副業で「殺し屋」をやっている。収入の額の多寡でいえば、こちらが本業。依頼者とは顔を合わせず、互いに誰だかわからないようにしているシステムや、依頼料やオプション、実行までの手続きなど、一応もっともらしくルールが決められているが、焦点はそこではない。
富澤はかなりの腕利きで、いったん引き受けた案件は失敗したことはない。確実に殺すし、自分の犯行だとバレたこともない。だから平和に暮らしていられる。人を殺すのに全く躊躇はなく、あとで悩んだり苦しんだりすることもない。そういう点では現実離れしている。
ただ、実行のために対象者を調査しているうちに、妙な出来事に気が付く。それはどうしてかと安楽椅子探偵よろしく解いて行く。それが本作の面白さである。安楽椅子とはいっても調査に手間暇をかけることもあるが、当人に確かめるわけにはいかないため、想像でしかない。とはいえ、わずかな手がかりから「それしかないだろう」と思われる解釈を見つけ出すところは、カタルシスを感じる。