鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「終幕のない殺人」

1987年7月、祥伝社刊。1991年2月、加筆訂正の上祥伝社文庫刊。1997年7月15日講談社文庫刊。私が読んだのは講談社文庫版で、紙の本。内田康夫は名前は覚えがあるが作品を読んだことは(恐らく)ない。が、たまたま書店で手に取って見て、巻末に作者自身による「自作解説」があって、興味を惹かれたので購入した。

本作は本格あるいは新本格のパロディ作品だとのことだが、どのあたりがパロディかというと、閉ざされた山荘に探偵を含む複数人が閉じ込められてしまい、そこで殺人事件が起きるという、手垢のついたパターンを踏襲しているから、という理解でいいか。

登場人物が多くて覚えきれず、関係性を理解するのに苦労した。途中から、巻頭に登場人物一覧があるのに気付いてからは少し楽になったが。

内容は、面白くもあり、ありきたりでもあり。「人は、そんな理由では簡単に他人を殺さない」「人を殺めたら平静ではいられない」というのはこの手の小説では禁句なのだろうからそれは言わない。その分、主人公(とその相方)はとびっきり魅力的でなければいけない。ホームズものがなぜあんなに長く愛されるかといえば、ホームズが「頭の良さを鼻にかけて人を小ばかにすることがある」「褒められたがり」「友情に篤い」「バイオリンの腕は一級」「大食い」「変装が得意」など、一風変わっているが魅力的な性質を備えているからだ。ワトソン博士も誠実・謙虚な人格者で、ファンは大勢いる。翻って本作における浅見光彦と野沢光子はあまり人間としての魅力が感じられず、二人の関係もはっきりしない。

とはいえ、機会があれば、浅見光彦の本来の姿を見てみたいという気が起きた程度には印象に残った。

それにしても、「名探偵、皆を集めてさてと言い」という川柳があるが、その時に犯人と目星をつけた人がいるなら、なぜあらかじめ警官には伝えて逮捕するか、せめて動きを抑えておくことをしないのだろうか。殺人を止められなかったのは浅見の責任ではないが、芳賀幹子の死は防げた。これもパロディのうちなのだろうか。



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