鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「アンリミテッド」1

タイトルと絵柄に惹かれて衝動買いしたが、思わぬ拾い物だった。引き込まれるし、非常に面白い。

主人公の桐流零央(きりゅう・れお)クンは真面目な高校一年生。しかしサイコパスの資質あり。それを見抜いた警察組織の人に、連続殺人事件の捜査協力を依頼される、というのがおおまかな筋。自身は犯罪者ではないからレクター博士とは違うけど、似たような役割か?

殺人犯の通常の人間とは異なる思考回路、それに基づく行動は、読者の予想を裏切っていく。つまり、予断を許さないストーリー展開ということで、その点がまず面白い。そして主人公が殺人犯(シリアルキラー)に感応する瞬間は妙にゾクゾクする。

非常によくできたサスペンスだと思うし、絵も手馴れたプロの仕事だと思うが、どこの出版社かと思ったら発行元はナンバーナイン……。Wikipediaによれば、本作品は秋田書店の「ミステリーボニータ」に掲載された作品らしく、単行本も1巻は出たようだ。つまり、一応単行本は出したものの増刷はかからず、2巻以降は出してもらえず、仕方なく自分で1、2巻を電子書籍で発行したというわけか。実力は十分感じられるし、実績もそれなりにある作家に対しての出版社のこの扱いはいろいろと疑問に感じるところだが真相がわからないからここまでにしておく。



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「挑戦者」1

ギャグの全くない本格ボクシング漫画。島本和彦の絵はもともと劇画タッチであり、真面目に描けばこれだけのものが描けるのだ。妙に昭和を感じさせるようなノスタルジックな雰囲気もあり、スポーツというより原始の殴り合いをしているようなボクサー(たち)である。誠に面白い。

面白いのであるが、不安でもある。島本和彦が本一冊まるまるギャグなしなど、どこか頭がおかしくなったのか、それとも次のページでまとめて壮大なギャグが始まるのか、等々、気になって安心してのめりこめないのである。思えば小山ゆうの「がんばれ元気」を読んだ時も小林まことの「シロマダラ」を読んだ時も、いつギャグになるのかと思い、ギャグでもなんでもないシーンでこれがギャグかと笑ってみたり、落ち着いて読めなかったものだ(今ではもう「そういう作品」だとわかっているから安心して読み返せるが)。

続きは気になるが、2巻以降を買うかどうかは微妙。



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「仮面ボクサー」

島本和彦漫画全集」はどこかの出版社の企画ではなく、作者自身による個人出版的なものらしく、電子版のみでの販売らしい(僕自身は電子版があれば十分だが)。個人でそういうことができるようになったことをめでたいと考えるべきか、出版社は何をやっているんだというべきか。本作は、オリジナルは徳間書店から発行されていた模様。

仮面ライダーのパロディ作。世界征服ではなくボクシング界の征服のため、仮面ライダーに登場したような怪人がボクサーとして登場し、普通のボクサーを傷つけ、仮面ボクサーがそれを倒し、……というある意味ステロタイプな話になっている。

島本和彦らしさにあふれている作品。個人的にはこの時代の女の子が一番かわいくて好きである。

ただし巻末の十数ページのネームはいただけない。僕はネームというのは(お金を取って)見せるものではないと思うからだ。全集だからそれもアリなのか……。


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「必殺の転校生」

思えば「ワンダービット」も「インサイダーケン」も「島本和彦漫画全集」の一部だった。それなら全集リストくらい巻末につけてくれればいいのに。本書も全集の中の一冊。

アオイホノオ」で断片的に採りあげられていて、一度通読したいと思っていた。単行本で出ていたので思わず買ってしまった(本になるのどの量があるとは思っていなかったから)。

 表題作はまあ、習作である。名作とは言わないが、まあなるほどということで、それはいい。驚いたのは、約半分がネームで埋められていたことだ。作者としてはお蔵出しのつもりなのだろうが、これは金を取って売る本なのか……?



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「キャプテン2」2

誠にびっくりな展開である。

夏の全国大会の準々決勝の相手は因縁の富戸だった。が、今度は好試合を展開し、最後はサヨナラ負けを喫するも、試合後は和解。そしてこの試合で慎二は再三にわたってファインプレイを連発、またJOYも成長の跡を見せる。

と、ここまではいいのだが、その後、近藤は受験勉強に精を出し、墨谷高校へ合格、丸井の後輩になるのだ。そこには受験生と監督を掛け持ちする谷口がいて……と、「プレイボール2」に収斂していくのだ。当然、フォーカスは近藤から丸井、谷口に移っていく。後半では谷口の予備校で同じクラスの女の子まで登場し……

いや話は面白いんだけど、これは「キャプテン」じゃナイッ! 「キャプテン」は墨谷二中の歴代のキャプテンが主人公の漫画だ。近藤がキャプテンを引退したらフォーカスから外れ、次代のキャプテンにズームすべきなのに、そのまま近藤を追いかけて行ってはダメじゃないか。近藤の次の代は春の大会で全国優勝をした。JOYが成長し、絶対的エースとしてチームを引っ張ったのだそうだ。それは近藤の成果でもある、と。それはいいけれどキャプテンが誰かもはっきりしない。慎二と思われるが、可哀相なほど影が薄い。全国優勝は近藤の遺産でもあるのだろうが、まず第一にはその時のキャプテンの手柄だろう。そこを描かなくては「キャプテン」の名にふさわしい作品とは言えないのではないか。

その他

  • 「JOYクンは男の子なのです」など、巨人の星かいというような女性蔑視的表現が何度も出てくるのが気になった。時代背景は昭和50年代くらいだからその時代の価値観で言っている、ということなのだろうか。しかしここは現代の価値観を優先させるべきだったのではと思う。
  • 丸井がベンチの中までやってきて近藤に命令し、暴力までふるおうとする。丸井は行き過ぎてしまうこともあるが基本的には後輩思い、なのだが、これでは行き過ぎているだけ。イヤな奴……になりかけるかと思われたが、ギリギリのところで近藤の努力を認め、後輩にねぎらいの言葉をかけるいい先輩に戻ってくれてよかった。
  • 丸井が試合中に近藤を追い回し審判に注意されるのは本編(「キャプテン」)春の大会のシーンの丸パクリ。サヨナラにつながる相手のセンター前の打球をセンターが突っ込んでワンバンで捕り、寝転がったままショートに投げショートがバックホーム……というシーンもほとんど同じシチュエーションが本編にあった。このあたりは仕方のないところだろう。



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「ねこようかい ムギュッ!」

  • ぱんだにあ「ねこようかい ムギュッ!」(バンブーコミックス)

「ムギュッ!」は「6」にかけているのであろう。最新刊。表紙の中心を飾るのはひゃくめ。ひゃくめが「ムギュッ!」と言うわけではないので、ひゃくめを「ムギュッ!」としたい、という意味であろう。

ますます新しいようかいが増えるが、おなじみのようかいも登場して心温まるという構成。

新たに登場するようかい

  • あまびえ
  • うわん
  • わらいおんな


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「ひとりでしにたい」3

  • カレー沢薫(原案:ドネリー美咲)「ひとりでしにたい」3(モーニングコミックス)

終活のお勉強漫画を見ているつもりが深い人間ドラマにどんどん引き込まれていく。その上3巻ではミステリー的な要素もあり、意外な展開に気持ちよく驚かされる。なんというすごい作品かと思う。本作品に接した人は、少なくとも3巻までは是が非でも読んでほしいと思う。この感動を分かち合いましょう。

本巻のメインテーマは両親の離婚である。母親は一方的に熟年離婚を考え、離婚経験のある友人に聞いて回ったりして情報を得、住むところまで考え、あとはどのタイミングで切り出すかという一触即発状態。

離婚はしない方がいい、と信じる鳴海は、何とか阻止すべく、今一人になっても経済的に大変だという話をすると同時に、何が気に入らないのかヒアリング。要は、父が何もしないのが我慢できないという。働いていた時は、家の中のことに無頓着でもお金を稼いできてくれるからと我慢できた。が、定年後の今も、終日家にいて何もせず、すべて自分にやってもらう気満々なのは……。

それならお父さんに何かやってもらえばいいのでは、と那須田。過去は変えられないけど、過去のことはそれなりに割り切れていて、現状に不満があるなら改善の余地がある。そこで今さら家事もできないだろうから、終活を父主導で進めてもらったらどうかと考えるが、母は激怒。余計なことを父に言うな、と。

離婚しない方がいい、というのは鳴海にとって「いい」というだけで、当の母にとってはそうではないのだろう、そこまで決意しているなら、その意思を尊重すべきだという那須田だが、鳴海は引っかかるものを感じる。お父さんのあそこが許せないここが許せないという割に、父に対してそこまで強い感情を母が持っているとは思えないのだ。

そこで鳴海は最後の説得を試みる。どうするつもりですか、と訊く那須田に、言ったらバカにされそうだけど、お母さんのことをバカにされたくないから、君には言うのをやめておく、と答える(これもすごいセリフだ)。

あなたとは話し合う気はないと言い、LINEを送っても既読無視の母を引っ張り出すための作戦もすごい。母が私と同じオタ気質なら、ニワカの煽りを無視できないはず、と、母の趣味であるHIPHPOに対して「最近私もHIPHOP始めたけど簡単だね~」と、自らの踊りを動画に撮って送る。そうしたら見事に母から返事が来たというわけ。

鳴海の指摘する、母が離婚したい本当の理由は、言われてみれば納得だが、少なくとも僕には思いつかないことだった。しかしわかってみれば、母のこれまでの半生に巣食う「業」も思い知らされ、改めて苦労が偲ばれるし、鳴海はそれに気づかなかった自分を素直に反省し、母に対して謝罪とこれまでの感謝を述べるのだった。やはりなんだかんだで鳴海は「素直でいい子」だ。

今回の話の発端である「伯母の孤独死」は、思ったよりのちの展開に影響を及ぼしていたが、ここで本当の意味で回収される。見事な問題提起であり、伏線の張り方だ。

これが現在の最新刊なのが残念なくらい。



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