鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「おどろき箱」

単行本は2004年7月25日。連作短編八編。

阿刀田高は大好きで、入手できる本はすべて買い集めていた時期がある。いつしか読まなくなってしまったが。

2003年は68歳、まだ老け込む年ではない。

「おどろき箱」がどういうもので、どこにあって、どのような経緯で主人公のものとなったのか、夢と現実の境目などがはっきりしない。はっきりしないところが幻想的でよいのだろう。

相変わらず面白いが、「首神さま」「七色マッチ」は何のアナライズなのかはすぐわかったし、「カレンダー」はちょっと理屈が勝ち過ぎて話としてはいまいち。

「黒い紐」でホームズの「まだらの紐」のストーリーとトリック、犯人をバラしてしまったのは驚いた。いくら有名な作品だと言っても、知らない人はいるだろう。特に若い読者には。ミステリーのネタバレは絶対してはいけないことだと、自身、若き日のエッセイで書いていなかったか。おどろおどろしいストーリーの途中までを紹介し、かわいそうなジュリア・ストーナーが亡くなったところで止めておけば、興味のある読者はホームズの本を読もうと思うかも知れないではないか。ちょっと残念だった。

専業作家になる前の作品から、リアルタイムで知っている人間としては、阿刀田先生も年を取られたのですね、という感想だ。

初出一覧

作品名 掲載誌 掲載号
首神さま 星星峡 2003年1月号
接着剤 星星峡 2003年2月号
七色マッチ 2003年3月号
逆転 星星峡 2003年4月号
いねむり地蔵 星星峡 2003年5月号
カレンダー 星星峡 2003年6月号
ゴム袋 星星峡 2003年7月号
黒い紐 星星峡 2003年8月号



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「マンボウ最後の名推理」

単行本は2003年2月10日刊。短編三作。

「にっぽん丸殺人事件」および「梅干し殺人事件」には北杜夫という自称・名探偵が登場し、事件の解決を試みるが、全く解決せず、自らの頭の悪さをさらけ出しただけで終わるという、まあユーモア小説。

これを読むと、株に手を出したことは、本当に作家・北杜夫を破壊したなあと改めて思う。株に手を出し、大損害を被っただけではない。せめてその時の体験を作品に生かしたいと思うのかも知れないが、晩年の作品には株に夢中になって他を顧みない登場人物がしばしば登場する。その迷惑ぶりにも辟易するが、もはやワンパターンで、北杜夫の作品世界を完全に壊したと思うのだ。あるいは、借金を返すべく、量産に励み、作品の質の低下を招いたのかも知れないが。

「赤ん坊泥棒」には北杜夫氏は登場せず、株の売買をする人もいない。普通のピカレスク小説。ミステリーではない。

書籍化されたのは、作品が発表されてから10年経ってから。なぜこんなにペースが遅かったのかは不明。雑誌掲載の出版社とも違う。人気作家でなければ、こんなものなのか。あとがきを書いているのは2002年12月、「もう二年前から、私は腰痛はひどくなり、しがない雑文も一、二枚書くともう痛くて寝室でしばらく休まないとあとが続けられない。もう仕事は無理」と綴っている。75歳。人はこうして年を取るのだ。

初出一覧

作品名 掲載誌 掲載号
にっぽん丸殺人事件 1993年1~3月号
梅干し殺人事件 週刊小説 1992年10月23日号
赤ん坊泥棒 週刊小説 1992年1月3日号



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「ねこようかい はちわれ」(新刊)

  • ぱんだにあ「ねこようかい はちわれ」(バンブーコミックス)

2023年2月22日刊。もちろん「ねこの日」である。ただ、6巻から7巻は半年程度だったが、今回は一年開いた。待ち切れないが、このくらいのペースがいいのかも知れない。

どれも可愛くて尊いが、自分は人魚のぱふぇちゃんが一番好きである。

新たに登場するようかい

  • なし



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「幼なじみ短編集」

面白そうな恋愛短編集があると思って読み始めた。短編集の1、2、3巻という位置づけのようだ。1、2は本当の短編集。3は全1巻の長編。ここまで読んで、絵柄にも覚えがあるし、内容も断片的に記憶にある、と思って調べたところ、「あるコンビニ店員が恋する話」は今月読んだ「ある幼なじみが結婚するまでの話」のスピンオフのスピンオフという内容だそうだ。覚えがあるはずだ。というか、今月の話なのに覚えていなかったのか……

中高生くらいだと、幼馴染みだったり、友人だったり、恋人だったりといっても、結局、やっていることにそうたいした違いはない(高校生くらいになると、違うかも知れないけど)。だからこそ、逆に当人同時の気持ちの持ち方が大きく影響するわけで、そのあたりのフワフワ感が自分はとても好きである。そんなわけで「幼なじみ短編集」「恋バナ短編集」は、どちらもとても面白い。

「あるコンビニ店員が恋する話」は少し趣向が違い、ちゃんとした恋愛ドラマだ。これはこれで面白い。香港拳法に関する描写はちょっとアレだけど、これは格闘漫画ではないので。

「マジで付き合う15分前」1~4

来月3、4巻が同時発売されて完結する、とのニュースを見て混乱していたが、要はこういうことらしい。現在、同じタイトルで同人版と商業版が発売されている。ここで紹介しているのは同人版である。

同人版はカラーページがたくさん含まれている。現在4巻まで刊行中。商業版の1巻は同人版の1~2巻、商業版の2巻は同人版の3~4巻に相当、モノクロ。かつ、商業版には電子版がない。基本的にkindle(のみ)を見ているため、商業版の存在に気付かなかった。

さて、話としては、同じマンションの隣同士に住む祐希と夏葉は、十数年来の幼なじみで同じ高校の三年生。仲はいいが別に付き合っているわけではない。が、卒業後の進学希望先が別々であることもあって、付き合ってみることに――

最近よく読んだ「幼なじみもの」の一環だが、群を抜いている。

とにかく女の子がかわいい。顔だけでなく、スタイルや仕草、表情も含めてかわいい。

初々しい二人が、初々しいなりに少しずつ距離を縮めていくさまがいい。変に照れ臭くもならず、嫌らしくもなく描くのは難しいと思うが、それがうまくいっている。

彼らがうまくいくことを願う祐希の妹・奈央の存在が興味深い。兄たちのことばかり考えているけど、自分にも、自分のことを考えてくれている人がいることに早く気づくことを願ってやまない。

しかし、夏葉は大学進学したらどうなるんだろうな。ここまできて別れる展開にはならないと思うが。



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「デキる猫は今日も憂鬱」7(新刊)

  • 山田ヒツジ「デキる猫は今日も憂鬱」7(シリウスコミックス)

2023年2月9日刊。

これまでダイちゃんのことに触れていなかったけど、ダイちゃんは優芽ちゃんが拾って幸来の隣人に預けた猫で、無事貰い手も見つかったのだが、諭吉の真似をして二本足で歩く努力をしているところを飼い主に見られ、動画がアップされ、バズって大人気になった。ダイちゃんは諭吉を師と慕い、諭吉は可愛がっているが、そのような関係であることを幸来も優芽も知らない。

今回はこの二人、ではなく二匹の接触が長時間あるのがじわじわきた。

優芽がダイちゃんのことを知り、元気にしていることを喜びつつも、これまで教えてくれなかったことで諭吉に文句を言うところもかわいい。

諭吉が買い物に行く前、迷惑がかからないよう、爪を切り、身体中の毛を念入りに落としていたことを知った。身だしなみ大切。

毎回巻末にエピソードゼロとして、諭吉がデキる猫になるまでが描かれていた。普段の諭吉はしゃべらず、心情がト書きで語られることもなく、表情でしか気持ちはわからないのだが、このエピソードゼロでは諭吉のモノローグで話が進むため、幸来に対するいじらしい思いが直接伝わってきた。だが、これは今回が最後になるという。残念だが、気持ちのいい終わり方だ。



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「後藤さんは振り向かせたい!」2

  • みきぽん「後藤さんは振り向かせたい!」2(KADOKAWA

2022年6月24日刊。1巻で完結したのかと思っていたが、そうではなかった。

二人でプールに行く話がメイン。「押しの強い後輩の話」でもプール回があった。描く側からすれば何かと開放的になるプールまたは海はよいテーマなのかも知れないが、まだカップルになって日の浅い、またはまだカップルになる前の二人にとって、海やプールというのは、実際には相当に敷居が高いのではないだろうか? 女の子の水着姿をじろじろ見てもダメ、よそ見してもダメ。キョドるのはわかるよ。