鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「酒場の女」

2023年2月10日刊。あら、比較的新刊だ。

酒場(居酒屋)を舞台としたショートコメディ。主人公の女性は、前任者の逝去に伴い急遽おかみを務めることになったが、最初は不慣れでいろいろやらかす。客も変な人がいろいろいて……という話。

WEBスナイパーで連載されていた作品だというので、ちょっとえっちだったりディープだったりする話かと思ったが、別にそんなことはなく、ビッグコミックオリジナルあたりに掲載されていてもおかしくない作品。

絵柄はあっさりしていてとっつきやすいが、ストーリーはちょっとじわじわくる。

一巻で終わりなのかな。続きがあるならぜひ刊行してほしい。



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「しあわせは食べて寝て待て」3

  • 水凪トリ「しあわせは食べて寝て待て」3(秋田レディースコミックスデラックス)

2022年10月14日刊。

司が山へ行ったと知ったさとこは、自分も追っかけて山へ行ってしまう。なんという行動力! これまでのさとこにはなかったものだ。そこで少し司と立ち入った話をする。司はヤングケアラーだった(家事ができるのはそのせい)。そんな自分を見かねて支えてくれた女性がいて、結婚しようと言われたけど結婚したくなかったから断わったら総スカンをくった……

一足先に山を下りたさとこは、お土産を私がてら、鈴から、司と出会った時の話を聞く。鈴と司の間には、さとこがわからない絆がまるようで……

2巻で登場した、同じ団地に住む高校生の弓ちゃんが再登場。両親の負の連鎖に巻き込まれたくないから関西の大学に進学して家を出たい、そのために部屋を貸してほしいとさとこに頼み込む。弓が何かにつけて「どうでもいい」と口にすることがさとこには気がかりだ。

昔の知り合いから会わないかと連絡がある。断わると、せめて電話と言ってくるが、それも断わる。愚痴を聞いてほしいのがみえみえ。一方的に話を聞くのはつらいから。冷たいかな、と後ろめたさを感じつつ、さとこは、自分を大切にできるようになったことを確認する。

心に残ったエピソードを拾っていくときりがないが、中身の詰まった話だ。4巻を気長に待とう。



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「セクサロイドVS殺人機械」

  • オレンジ君「セクサロイドVS殺人機械」(秋田レディースコミックスデラックス)

2022年10月22日刊。

主人公はセクサロイド。人間の……というか、男性の性に奉仕すること(のみ)を目的に作られたアンドロイドだ。冒頭でいきなり歯の浮くような艶めかしいセリフで誘惑するシーンが現われるが、これは練習。主人公はもう10年も「ご主人様」に出会っておらず、次に候補者を見つけた時に、すぐにお仕えできるよう練習していたのだ。

ご主人様に出会えていないだけではない。インターネット接続ができず、システムのアップデートができないのも不満だ。

実は人間は既に絶滅していた。人類が絶滅した地球でなお人間の痕跡を消し続けている「機械」に出会った主人公は……

という、全然いやらしくない、終末もののSFだ。

なぜかセリフは横書きで、ページは右に開いていくアメコミ仕様。海外での出版の視野に入れているということだろうか?



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「おどろき箱」2(完結)

単行本は2004年8月25日。連作短編七編。

おどろき箱とはいったい何なのか、一応最終話で明かされる。これまで父と母のことはチラリと描かれ、主人公はどちらも好きなようだが、別居しているらしいこと、父と母の仲はあまりよくないらしいことが察せられていたが、これも最終話で事情がわかり、元の鞘に収まるというハッピーエンドとなる。

もっとも、なぜ父がこのような不思議な箱を用意できたのかはわからないが……

少年の体験したことも、実際にあったことなのか、夢の世界の話なのかも判然としない。このあたりはどうとでも想像してくださいということだろう。

初出一覧

作品名 掲載誌 掲載号
ぐるぐるぐる 星星峡 2003年9月号
遠い記憶 星星峡 2003年10月号
金魚板 星星峡 2003年11月号
夜のない町 星星峡 2003年12月号
緑の目 星星峡 2003年1月号
アイウエ王物語 星星峡 2003年12月号
採点表 星星峡 2003年3月号

掲載号は、「緑の目」「アイウエ王物語」は2004年、「採点表」は2005年の誤植か? と思うが、本にはすべて2003年と記載されている。


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「しあわせは食べて寝て待て」2

  • 水凪トリ「しあわせは食べて寝て待て」2(秋田レディースコミックスデラックス)

2021年11月16日刊。

1巻の最後で、さとこを温泉に誘ったのは司だと思い込んでいたが、勤め先の上司であり、社員旅行の話だった。しかも社員旅行は一話で終わり。ちょっと拍子抜け。

さとこが前職を辞める羽目になったのは同僚からのハラスメントがあったことが明らかになった。それであれば復職も可能との連絡があるが、さとこは、今の生活が自分には合っていると、感謝しつつも断わる。

1巻で、司のアイデアで募集した空き部屋に新たに入って来た人が、本巻で本格的に登場。意外な強者だった。

鈴さんが副業をしていることが明らかになる。いや、鈴さんは年金生活者だから、副業とは言わないか……? 金銭的には依然、厳しいさとこも、副業を検討。が、想像以上に疲れることがわかって中止する。でも、同じマンションに住む中学生の目白さんは、いろいろ抱えているものがありそうだ……

司とその友人の八つ頭はニート仲間。働いてもいないくせに明るく振舞っているのが妙に癇に障ったさとこは、二人に当たってしまう。

またしても次の巻が気になる引きだ。



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「しあわせは食べて寝て待て」1

  • 水凪トリ「しあわせは食べて寝て待て」1(秋田レディースコミックスデラックス)

2021年4月16日刊。

東京新聞ブルボン小林のコラムの連載が終わって残念に思っていたら、新たに藤本由香里のコラムが始まった。その第一回で紹介されていたのが本作。サンプルを見たら絵の好感度が高かったため購入したところ、抜群に面白かった。

バリバリ働いて、マンションの購入も視野に入れていた麦巻さとこ。が、病気のため、日常生活は送れるがフルタイムの勤務は無理になり、週四日働いて三日休む生活に。家賃が払えないため、築45年の団地に引っ越すことに……

バリバリできない自分を受け止め、認めてあげる物語、とでもいうのか。

隣人の司さんも、若く健康な男子だが、仕事をせず、赤の他人の美山鈴の家に居候し、養ってもらっている。鈴は鈴で、90歳を過ぎて「お手伝いさんがほしいと思っていた夢がこの年になってかなった」と楽しそう。いろいろ欠けているが、欠けていることを残念がるのではなく、その中でできることをして、幸せを見つけていく。文字にすればそういうことだろうが、力づけられる話である。

目黒さんは美人でスタイルがいいし、ファブルの佐藤は天才的な殺し屋だし、猫の諭吉はもちろんでき過ぎる。そういう強烈なキャラクターに引き込まれるのが多い中で、異色ではある。こういうタイプの作品に接するのは、初めてではないと思うが、すぐに思い浮かぶものがない。

さとこと司の関係も気になるところ。2巻では少し発展しそうだが……?

「目黒さんは初めてじゃない」9(新刊)

  • 9℃「目黒さんは初めてじゃない」9(パルシィコミックス)

2023年2月20日刊。発売当日に入手したが、なかなか記事が書けなかった。

ここへきてようやく作者のやりたいことがわかってきた。目黒さん(と古賀くん)の周囲にいる人たちに順にスポットを当て、その人たちにもその人たちなりの悩みがあり、問題を抱えていること、それに目黒さん(と古賀くん)が関わることで、彼ら自身の成長のきっかけになること……を示したいのだと思う。

今回は藤井さん。藤井さんとその彼氏(和久銀次)は過去にも登場していて、銀ちゃんは藤井さんのことが好きで、その気持ちを隠さず全開にしていて、藤井さんはそれを鬱陶しがってしばしばケンカになる……が、基本的には仲がいい。そういう間柄だと思っていた。

恐らく、藤井さんはアセクシャルなんだろう。ギンのことは好き嫌いでいえばもちろん好きだし、信頼しているが、恋愛感情を持っているわけではない。だから恋愛感情丸出しの和銀ちゃんが鬱陶しいし、申し訳ない気持ちでもあるのだ。それでも相手が喜ぶのならと、キスもするし、肉体関係もある様子。そこまでできるなら、それで十分な気もするが……

藤井さんは藤井さんなりに、銀ちゃんは銀ちゃんなりに、そして古賀さんもそれなりに悩み、意見を言い、ひとつの結論が出た。これから先どうなるかは、またその時のお楽しみだ。



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