鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

新しい義経像

源義経

源義経

「判官(ほうがん)びいき」という言葉があるように、判官九郎義経は日本人のヒーローである。そのイメージは、態度の悪い木曽義仲を滅ぼし、平家にとどめを刺して鎌倉幕府の基礎を築いた第一人者であり、しかし実兄・源頼朝に嫌われて短い生涯を終える、悲運の名将である。小さい頃は、そうした伝記物語を何冊も読んだ覚えがある。

本書に登場する義経はそうしたイメージを一新するものだ。戦(いくさ)には天才的な能力を発揮したが、政治はわからず、頼朝に疎まれるのも致し方ないと納得できるように描かれる。戦に関しても、勝てばよしのなんでもありで、当時としては卑怯といわれるような戦法を多用したことが示される。

決して手放しで賞賛するのではなく、光と影のある、人間としての義経を描こうとしたものと思われ、その試みは成功したといってよいのではないか。とても魅力的なキャラクターに映った。

義経といえば、静御前が頼朝に捕らえられる場面や、武蔵坊弁慶勧進帳を広げる場面がひとつの山場である。誰でも知っている話だが、何度読んでも感動するシーンであり、義経を描く時には避けられない逸話と思われるが、本書ではばっさり省略されている。

静御前義経そのものの話ではないし、勧進帳の話は史実ではないから省いたのだろう。こうした潔さが話を大変すっきりしたものにしている。義経のことをよく知らない人も、義経ファンも、一読をお薦めしたい。

なお、作者の佐野絵里子は、彼女が高校生の時から知っているが、この子は才能がある! と、具体的に何かしてあげたわけではないものの心中密かに応援していた。いまや毎年単行本が出るほどの作家になったかと思うと、感動もひとしおである。ぜひとも売れてほしいのである。

(別ブログより転載/original : 2006-02-05