鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「猫には推理がよく似合う」

  • 深木章子「猫には推理がよく似合う」(角川書店

2016年9月2日刊。

凝った手法である。最初に短いミステリーが述べられるが、謎は解決せず、全く別の物語が始まる。途中で、冒頭の物語は作中人物(?)の書いたミステリーであることが示され、謎も解かれる。

主題を占める物語は、田沼清吉弁護士事務所に勤める椿花織の目で語られる。弁護士事務所だけあって、次から次へと胡散区さん人物が訪れる。そんな中、その人物のうちの一人が凶悪事件に関与していたことを花織はある方法で知ってしまうが、そのことを田沼先生に告げるのをためらう。どうしてそれを知ったのか追求されたら困るからだ。そんな矢先に田沼先生が殺されてしまう――

田沼先生の死が叙述されるのは物語の中盤、人が良くて正義感が強い田沼先生について十分な描写がなされていた頃だったから、殺されたのは腹が立ったし悔しかった。花織が先生に事実を告げていたら、もっと警戒するなり、別の展開もあっただろうにと。

ミステリーのストーリー説明は難しいが、この「事件」は自分の予想とはまるでかけ離れた展開となった。ネタバレになるが、結論だけを言うと、本書の中では誰も死なない。

本書の魅力は何といっても主人公のスコティに尽きる。キャラクターが生きていて、仕草といい、物言いといい、とても可愛いと思わされてしまう。スコティの魅力で最後まで引っ張られたといっても過言ではない。

一方、終盤で登場した睦木怜弁護士は、深木章子作品にたびたび登場する「名探偵」らしい。が、魅力に欠ける。シリーズを股にかけるキャラクターだとは信じられない。

これはミステリーの探偵役によくある悪癖なのだが、「被疑者がA、B、C、Dといたとして、Aは犯人ではあり得ません、なぜなら……。Bが犯人とすると~の矛盾が生じますから、やはり犯人ではありません、同様にCも犯人ではありません、真犯人はDです」という説明は、読者の気を持たせるためにわざとやっているのだろうが、イライラするからやめてほしい。「真犯人はDです」とまず言ってから、A、B、Cが犯人ではない理由を述べればいいのだ。睦木怜弁護士もこうした話し方をする。ビジネスマンなら「まず結論を述べよ」と叱られるだろう。

弁護士業界についてずいぶん詳しいと思ったら、作者は(元)弁護士だった。その上1947年生まれで、60歳を過ぎてから小説を書き始めたのだそうだ。スゴイ。



漫画・コミックランキング