鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ミステリと言う勿れ」1

  • 田村由美「ミステリと言う勿れ」1(フラワーコミックスアルファ)

月刊フラワーズ」2017年1月号および2018年1月号掲載。単行本は2018年1月10日刊。

最初のきっかけは広告だと思うがはっきりとは覚えていない。田村由美はかなり著名で実績のある漫画家らしいがその名をそれまで聞いたことがなかった。何かのきっかけで本作を読み、たちまち夢中になり、7巻までを大人買いした。なぜ7巻までかというと、その時7巻までしか発売されていなかったからだ。だからそれは一昨年の9月以降、昨年3月までの間の出来事だ。

とにかく面白くて、もちろん早々に本ブログで取り上げたかったが、その面白さをどう言語化すればよいのかずっと迷っていた。いずれタイミングがきたらと考えているうちに日が経ち、今日になってしまった。その後、菅田将暉主演で実写ドラマ化されることになり、今日がその初回放映の日である。もちろんドラマは楽しみにしているのだが、ドラマを見てしまうと漫画を読んだ時の感想が変わってしまう可能性があるため、見る前に書かなければと思ってこうしてノートに向かっている。

ミステリーである。第一巻には「寒河江健殺人事件」と「バスジャック事件」が途中まで掲載されている。

寒河江健殺人事件」は主人公出る久能整(くのう・ととのう)くんが殺人事件の容疑者として警察署に連れていかれるところからスタートする。本人はやっていないので無罪を主張するが聞いてもらえない。そのような身動きの取れない中で、事件の謎を解いていく。アームチェア・ディテクティブの一種であるが、通常の安楽椅子探偵より縛りがきつい。探偵が実は犯人でしたというミステリーは思い浮かぶものがあるが、犯人とされた人物が、身の証を立てるために、部屋から出られず外部と連絡も取れず、それで真相を解明するというなかなかすごい話である。

まずミステリーがしっかりできている点が魅力の第一である。ちゃんと本格である(ここでは「本格」の定義は言及しないが)。読者や関係者が、これが真相だったかとほっとしたところで、さらにどんでん返しがある構図は、驚かされる。

しかしなんといっても本作の魅力は、整くんの「話」にある。単なるおしゃべりとも違う。とにかく彼は語るのである。第一話に関していえば、ゴミの出し方、子供のしつけ、女性社員の役割。独特の視点から、言われてみればなるほどという妙な説得力のある筋立てで話す、その内容が面白いのだ。

真犯人がわかったあとで、真犯人を苦しめるような追求は少々やり過ぎの感がなくもなく、周囲から止められるが、そもそも冤罪で警察署まで連れて来られて何日も留め置かれた。そのため授業は欠席させられ予約していた美容院と歯医者はブッチさせられた。そのことに対して彼は怒っていたのだ。そういう意味では爽快感もある。

漫画作品で「ミステリーもの」の傑作は、野間美由紀の一連の作品を除いては思い浮かぶものがない。本作はミステリー漫画の歴史に貴重な足跡を残すのではないか。

初出一覧

No. タイトル 掲載誌
Episode 1 犯人は一人だけ 月刊フラワーズ2017年1月号
Episode 2 会話する犯人 月刊フラワーズ2018年1月号


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