鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「裏都市伝説」

裏都市伝説

裏都市伝説

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「裏都市伝説」一話完結の話が4話、それとは関係のない短編が1話の短編集。

ホラー&サスペンス系の作品かと思ったが、実際幽霊や異形の者が登場するのだが、設定のみで終わっていて追求が甘い。せっかくなのにもったいない感じの作品。

発表順と収録順が一致しない。発表順でいうと、4話目が最も早く、足掛け3年にわたって4つの話が描き継がれたことになる。

最後の短編は、冒頭から少女漫画風ギャグにあふれていたと思ったら、最後のオチもギャグ。これはこれで面白いとは思うが、この作品集に収めることがよかったのかどうか。

第四話の話中に、書店の棚が描かれる。そこに並んでいる本は絵ではなく写真のようだが、作者名のところがわざとぼかされている。調べてみるとこれはすべて亜月亮の作品のようだ。思ったより多作なのだな。これによると、「都市伝説」が9巻まであり、さらに「闇都市伝説」「都市伝説Jr」「これは、本当にあった話です」などの作品がある。「裏都市伝説」はこの系列の作品なのか。

本の中には記載がないが、Jコミックテラスのによる出版のようだ。なぜマーガレットコミックスとして出ないのかなあ……

初出一覧

作品名 掲載誌 出版社 掲載号
裏都市伝説 ミノヒメサマ マーガレット 集英社 2014年16号
裏都市伝説 かくれんぼ ザ・マーガレット 集英社 2013年8月号
裏都市伝説 夏に還る…… ザ・マーガレット 集英社 2015年10月号
裏都市伝説 古本 マーガレット 集英社 2013年10号ふろく
キミを呪わば50年♡ マーガレット 集英社 2014年3・4合併号


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「汝、隣人を×せよ。」3(完結)

  • 亜月亮「汝、隣人を×(バッ)せよ。」3

「一生一殺法」はいろいろと批判もあるようだが、これが施行されてから、職場でのパワハラ、セクハラ、学校でのいじめ、家庭内DV問題は激減したそうで、外国でもこれを取り入れるところが出てくる……

2巻でも触れられたように、意外と穴の多いこの法制度だが、3巻では次の事実が示される。

  1. 殺益権は譲渡できる
  2. 本来は殺益対象にならない人も複数の殺益申請が集まれば殺益となる。これにより不祥事を起こした政治家やブラック企業のCEOなどにも適用が可能になる
  3. これまでは殺益申請が受理されても、対象者が海外に移住すれば殺益実行はできなかったが、その国が「一生一殺法」を適用されれば国家間で対象者の引き渡しまたは現地での執行が可能になる

1は、作品内では描かれていないものの、問題が生じるだろうことはすぐに想像がつく。金銭による売買は禁止されているというが、暴力・権力その他、取り上げる方法はいろいろある。本来は弱者を守るためのものだったが、それが逆転しかねない。

2は、作品内でも悪い噂を流された大臣が殺益されるシーンが描かれたが、こんなことがまかり通れば有名人はみな枕を高くして寝られないだろう。

終盤、「こんな狂った法律が支持されるなんて日本は終わりだな」と外国人に言われるが、諸外国でもこの法を取り入れるところがどんどんでてくる……というところで終わる。

結局、システムが暴走し、自己崩壊を起こし始めたということだ。なんという救いのない終わり方だ。こんなヒリヒリする話があっていいのか(褒めてます)。

ただし、こういう終わり方をした以上、続編は期待できない。3巻の前半までのレベルの話がもっと読みたかったが。同じ作者の他作品に期待だ。



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「汝、隣人を×せよ。」2

  • 亜月亮「汝、隣人を×(バッ)せよ。」2

1巻では、ひじめの被害者が一殺権を行使することになり、一人だけの相手として誰を選ぶのか? というミステリー風の話もあったが、基本的に選ばれた人は読者から見て「殺されても仕方がないな」と思えるような人だった。つまり漫画的には「こういう制度もありじゃね?」と思わせてくれるようなリアリティがあった。

この路線がずっと続くのかと思ったが、2巻では、この制度上の矛盾を突くような話が登場する。

「一生一殺法」を利用して自分の親や配偶者を殺した場合、遺産を相続することはできない。財産目当てを防ぐためだ。が、これの裏をかいて、AがBを殺したいと願い、XがYを殺したいと願っているとき、AとXが共謀してAがYを、XがBを殺益するという話。

また、殺すに値する人物だと判断して殺益を行使したが、実は誤解で、ただ真面目で不器用なだけだったことがあとでわかった、という話。

こういう事態が簡単に許容されてしまうのだとすると、かなり問題だと思わせる。だからこそリアリティがあるともいえる。

よく考えられた話だ。



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「汝、隣人を×せよ。」1

  • 亜月亮「汝、隣人を×(バッ)せよ。」1

こういう話が読みたかったんだ!

「アンリミテッド」でこの作者に注目した身としては、その路線の作品を探していたのだが、本作はまさにそれ。ものすごくゾクゾクした。ゾクゾクした、というのは僕にとって最高の誉め言葉(のひとつ)。

「一生涯につき一人だけ殺人を許可される権利」を保証する「一生一殺法」が施行されている世界の物語。一殺が許されるといっても、勝手に殺していいわけではなく、まずは申請して、その人が生きていることが自分の人生に深刻な障害になっていると判断された場合に許可が下りる。そして専門の部隊が対象者を確保し、死に至らしめるというわけ。ちなみに、その死によって救われる生命が存在することが前提であるため、「殺害」ではなく「殺益」と称されることになっている。

一見とんでもない話に思えるが、恨みを買うようなことをすると殺されるかも知れない、ということが抑止力になって犯罪や自殺が減少傾向にあり、「効果あり」と判断されているようだ。

普通に告訴して、法に従って量刑を受けるということとどう違うのかと思うが、その場合は法を犯しているかどうかが問題で、間違いがあってはいけないから、慎重な捜査や裁判が行われ、非常に時間がかかるし、たいていの場合、被害者が望むほどの刑にはならない。

「一生一殺法」では、自分の平安な人生が著しく侵される(から死んでほしい)と強く願っていることが重要視され、法を犯しているかどうかは必ずしも問題ではなさそうだ。もちろん、単に気に入らないからという理由での申請は弾かれる。そのため、執行委員会では綿密な調査を行なうが、短期間で調査を行なうために、超法規的な行為も許されている。ここがポイント。そして捕獲と同時に「殺益」は実行される。このスピードがさらなるポイント。

執行委員会は全国各地に大勢の部隊がいるのだろうが、本作では常に同じチーム(関東支部13班)の活動を描いている。チームリーダーは未来(みく)という名の若い女性だ。

つまりこれは、曽祢まさこの「呪いのシリーズ」や「ゴルゴ13」と同じ構図なのだ。ゴルゴ13の場合は政治的・社会的な理由での依頼が多く、個人的な恨みは多くはないが、「呪いのシリーズ」のカイへ殺しを依頼する人は若い女性が多く、ほとんどが個人的な恨みだ。カイもゴルゴ13も、依頼があれば必ず受けるというわけではない。ゴルゴの場合は仕事を受ける・受けないの判断は倫理的なものとは異なることがほとんどだが、カイの場合は、誤解に基づく依頼の場合は仕事を受けず、誤解を解いてあげたりすることもある。いずれにしても、依頼が受理されたら、ただちに「殺し」が実行される。

「呪いのシリーズ」では寿命10年分、「ゴルゴ13」では普通の民間人なら貯めるのに一生かかると思われるほどの費用を支払う必要がある。いかなる理由があれ、仮にも人を一人殺すのだから、依頼者もそのくらいの対価を支払うべきだ、と思われることと、そのような大きな対価が必要であることで濫用の抑止力になっている、という面もあるのだと思う。

本作では、「一生に一回だけ」のカードを切ることが対価であり、抑止力にもなっているようである。
「ひとは、いかにしてひとを殺したいと思うようになるのか」を、心理的な葛藤も含めて描いているのが面白い。読者も、こいつは殺されても文句は言えないな、という人物が最後に殺されるので、ある種の爽快感がある。

主人公(なのか?)の未来が、正義の代弁者という感じとはかけ離れた、イヤな女であるところもイイ。復讐は正義の名のもとに行なってはダメなのだ。

「呪いのシリーズ」は本当に好きだったが、本作も同じくらいよくできている、と思う。



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「僕のママに手を出すな」

  • 山内規子「僕のママに手を出すな」(青泉社)

引き続き山内規子の本。

タイトルから、親離れできないママ大好きやんちゃ坊主の話かと思ったら、あにはからんや。やんちゃ坊主(瞬クン)はママ大好きには違いないのだが、このママは殺されそうになったりストーカーに付け狙われたり、とんでもない目に遭い続けるのである。それを知った瞬がなんとかママを守ろうと奮闘努力し、実際にそれで助かることもあれば、子供ゆえ力及ばず何もできないが、周囲の大人の協力で無事解決となることもあり、……というサスペンスである。

周囲の大人たちも、親切そうに見えた人が酷い人だったり、厭な奴だと思った人がいい奴だったり、いい奴だと思ったらやっぱり厭な奴だったり、クズだと思ったら本当にクズだったり、油断できない。

ママの精神年齢がちょっと幼過ぎるとは思うが、それはそれ。期待を裏切らない面白さだった。

全編表題作かと思ったらそうではなく、4話で終わりで、あとは短編が二作。もっとも第4話が明確な最終回というわけでもなく、これで終わり? という気にさせられた。もともとこの話は長い間をかけて(いろんな雑誌に)描き継がれたようだし、また続きが描かれる日がくるのかも知れない。

「瞳を閉じて」は女子力が高そうに見えるが実は家事全般何もできない女の人の話。ほのぼのコメディ。まあ、よくあるっちゃよくある話だが、ひねりは効いている。相手の男の人が始終くわえ煙草なのは、気になるところ。昭和な時代ならあり得たかもだけど……

「教えて先生」は人が殺される。ミステリーだがこの本の中で一番凄惨な話。こういう救われない話は割と好きである。

というわけで、ますます山内規子の他の作品も読んでみようと思った。

なお山内規子も結構な作品を残しているベテラン漫画家とお見受けするが、Wikipediaに項がない。なぜだ。

初出一覧

作品名 掲載誌 出版社 掲載号
僕のママに手を出すな 第一話 オフィスユープラス 創美社集英社 2004年11/1号
僕のママに手を出すな 第二話 オフィスユー 創美社集英社 2005年4月号
僕のママに手を出すな 第三話 オフィスユー 創美社集英社 2005年10月号
僕のママに手を出すな 第四話 ミステリーサラ 青泉社 2017年7月号
瞳を閉じて 結婚協奏曲 あおば出版 2002年6月号
教えて先生 殺意と裏切りのベストサスペンス 宙出版 2008年

オフィスユー」は集英社が発行する漫画雑誌だと思うのだが、創美社がクレジットに入っている事情がわからない。



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「軍師 黒田官兵衛伝」5(最新刊)

これまでの発売ペースから、5巻の発売はまだ当分先になるかと思い込んでいて気づくのが遅れた。

主な出来事:

豊臣秀長宇喜多秀家、そして毛利の計11万の軍勢が長宗我部を襲うところで次の巻へ。

「真田魂」とほぼ同時期(本作の方が少し前の時代)を描いていて(このブログではまだ紹介していないが、「信長の忍び」も連載中で)、よく同時に描けるなあと思う。が、共通するキャラクターは顔も性格も同じになっているためわかりやすい。

作品が異なるのは、同じ歴史を視点を変えて描いている、というわけではなくて、対象としているエリアが違っている(「真田魂」は主に東国、「黒田官兵衛伝」は主に西国)ということのようだ。もっとも戦国時代前期は東国と西国では全く別の話だっただろうが、これからの時代は西も東もなくなるので、そこはどう描くのだろうか。関が原も大坂の陣も、「黒田官兵衛伝」「真田魂」ともに重要なイベントになると思うが。



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「幽子と俺の奇妙な日常」

  • 山内規子「幽子と俺の奇妙な日常」(青泉社LGAコミックス)

作者もタイトルも初めて見るが、Amazonをうろうろしていて何となく惹かれるものがあったため、ポチってみた。とても面白かった。こういうことがあると「生きているのは悪いことばかりじゃない」と思う。

短編集。「幽子と俺の奇妙な日常」という作品が全1巻で描かれるのかと思ったら、そもそもそのような作品はない。冒頭の「ムーンライト」に幽子が登場するから、この作品のことを指していると思われるが、3話で終了。全体の半分にも満たない。

全体としてはホラー&サスペンスもの、ということになろうか。ミステリー要素も多い。

「ムーンライト」は、幽霊が登場するものの、基本はあっけらかんとしたラブコメ。ただし幽霊が何に未練を残していて成仏できないのか、思いを果たしたあとの展開など、意外性の連続で、上質のミステリーを読んでいるかのようなカタルシスが得られた。終わってみれば大団円で読後感もよい。ただし、貴吉クンに振られる実樹だけは救いがなくてかわいそうだ。貴吉が「幽霊のせいだ」と説明してもすぐに信じられないのは仕方ないが、そこで、「じゃあそういうことでいいよ」と諦めてしまうのは実樹にも、自分自身にも、周囲の人に対してもよくないと思う。これだけ状況証拠が揃っているのだから、きちんと説明すればわかってもらえたはずだ。*1

それ以外の短編は、ハッピーエンドもあればアンハッピーエンドもある。幽霊に殺されると思い込んでいたら、実はその幽霊は自分を守ろうとしてくれたのだ、という話もあれば、本当に幽霊に殺されてしまう話もあり、予断を許さない。

いい本と作者を見つけた。ほかの著書も読んでみよう。

ところで、奥付がなく、出版社や発行日がわからない。検索して青泉社刊であることはわかったが、発売日は青泉社のサイトでは2015年9月19日になっており、Amazonでは2016年9月30日になっている。オリジナルが2015年でkindle版が2016年なのか? 紙の本で奥付がないものは記憶にないが、電子書籍ではしばしばあるのはなぜだろうか。重要な情報だと思うのだが。

初出一覧

作品名 掲載誌 出版社 掲載号
ムーンライト ぶ~け 集英社 2000年1~3月号
夏休み さくら愛の物語 あおば出版 2003年8月号
飛ぶ子供 サクラミステリー あおば出版 2001年7月号
聞こえない声 サクラミステリー あおば出版 2001年1月号
冷たい指 サクラミステリーデラックス あおば出版 2006年9月号
俺と真弓のその後の話 描きおろし    

あおば出版は2007年に倒産して今はない。ついでに「ぶ~け」も2000年に廃刊になっている。合掌。



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*1:幽子に取り憑かれた貴吉は不本意ながら同居(?)生活を送ることになるが、挙動不審な貴吉を見て規子は自分のほかに好きな人ができたのだと誤解してしまうという話。