鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「汝、隣人を×せよ。」1

  • 亜月亮「汝、隣人を×(バッ)せよ。」1

こういう話が読みたかったんだ!

「アンリミテッド」でこの作者に注目した身としては、その路線の作品を探していたのだが、本作はまさにそれ。ものすごくゾクゾクした。ゾクゾクした、というのは僕にとって最高の誉め言葉(のひとつ)。

「一生涯につき一人だけ殺人を許可される権利」を保証する「一生一殺法」が施行されている世界の物語。一殺が許されるといっても、勝手に殺していいわけではなく、まずは申請して、その人が生きていることが自分の人生に深刻な障害になっていると判断された場合に許可が下りる。そして専門の部隊が対象者を確保し、死に至らしめるというわけ。ちなみに、その死によって救われる生命が存在することが前提であるため、「殺害」ではなく「殺益」と称されることになっている。

一見とんでもない話に思えるが、恨みを買うようなことをすると殺されるかも知れない、ということが抑止力になって犯罪や自殺が減少傾向にあり、「効果あり」と判断されているようだ。

普通に告訴して、法に従って量刑を受けるということとどう違うのかと思うが、その場合は法を犯しているかどうかが問題で、間違いがあってはいけないから、慎重な捜査や裁判が行われ、非常に時間がかかるし、たいていの場合、被害者が望むほどの刑にはならない。

「一生一殺法」では、自分の平安な人生が著しく侵される(から死んでほしい)と強く願っていることが重要視され、法を犯しているかどうかは必ずしも問題ではなさそうだ。もちろん、単に気に入らないからという理由での申請は弾かれる。そのため、執行委員会では綿密な調査を行なうが、短期間で調査を行なうために、超法規的な行為も許されている。ここがポイント。そして捕獲と同時に「殺益」は実行される。このスピードがさらなるポイント。

執行委員会は全国各地に大勢の部隊がいるのだろうが、本作では常に同じチーム(関東支部13班)の活動を描いている。チームリーダーは未来(みく)という名の若い女性だ。

つまりこれは、曽祢まさこの「呪いのシリーズ」や「ゴルゴ13」と同じ構図なのだ。ゴルゴ13の場合は政治的・社会的な理由での依頼が多く、個人的な恨みは多くはないが、「呪いのシリーズ」のカイへ殺しを依頼する人は若い女性が多く、ほとんどが個人的な恨みだ。カイもゴルゴ13も、依頼があれば必ず受けるというわけではない。ゴルゴの場合は仕事を受ける・受けないの判断は倫理的なものとは異なることがほとんどだが、カイの場合は、誤解に基づく依頼の場合は仕事を受けず、誤解を解いてあげたりすることもある。いずれにしても、依頼が受理されたら、ただちに「殺し」が実行される。

「呪いのシリーズ」では寿命10年分、「ゴルゴ13」では普通の民間人なら貯めるのに一生かかると思われるほどの費用を支払う必要がある。いかなる理由があれ、仮にも人を一人殺すのだから、依頼者もそのくらいの対価を支払うべきだ、と思われることと、そのような大きな対価が必要であることで濫用の抑止力になっている、という面もあるのだと思う。

本作では、「一生に一回だけ」のカードを切ることが対価であり、抑止力にもなっているようである。
「ひとは、いかにしてひとを殺したいと思うようになるのか」を、心理的な葛藤も含めて描いているのが面白い。読者も、こいつは殺されても文句は言えないな、という人物が最後に殺されるので、ある種の爽快感がある。

主人公(なのか?)の未来が、正義の代弁者という感じとはかけ離れた、イヤな女であるところもイイ。復讐は正義の名のもとに行なってはダメなのだ。

「呪いのシリーズ」は本当に好きだったが、本作も同じくらいよくできている、と思う。



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