鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「月出づる街の人々」2

  • 酢豚ゆうき「月出づる街の人々」2(アクションコミックス)

2023年7月20日刊。連作短編集。1巻があまりによかったから速攻で2巻を購入。

異形の者がいろいろいるのはいいとして、メドゥーサの子がメドゥーサ、ドラキュラの子がドラキュラというわけではなく、ガラガラポン。メドゥーサの目を見ても石にならない。フランケンシュタインも、そのように生まれた生物である。透明人間は身体が透明になるだけでなく、着ている服も同時に消える。など、我々の知っている異形とはルールが細々違っている。

しかし、結局思春期の悩みは、人間と変わらないんだなあとも思う。

本巻から一話語るとしたら、なんといっても最後に収録されている第十話「透明人間の風邪」だ。狼人間の高橋駿介くんが、ハルミを思って遠吠えし、それを聞いたハルミが何を言っているのか理解した(とハルミが思っている)ところで泣ける。この二人、先は長そうだがうまくいってほしい。



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「月出づる街の人々」1

  • 酢豚ゆうき「月出づる街の人々」1(アクションコミックス)

2022年9月15日刊。連作短編集。

透明人間、メドゥーサ、フランケンシュタインの女子三人組は大の仲良し。透明人間は最近気になる男子ができた。彼は狼男なのだが……

異形な物たちが、互いに異形であることを気にしつつ、当然と受け止め、仲良く暮らしている世界。恋愛、友情、家族、さまざまな関係にスポットをあてた学園コメディ、とでもいうか。

互いに異能力を持っていることをごく自然に受け入れつつ平和に暮らす学園コメディといえば、自分の中では「うちのクラスの女子がヤバい」あたりから始まったように感じるが、どうだろう。

どの話も明るく、前向きなのだが、いじらしい。印象的なのはなんといっても第一話。透明人間と狼男の恋物語だ。体毛をブラッシングする、というのは、犬や猫ならどうということはないが、人間の男子(それも思春期の)と考えると、される方が悶々としてしまうのはわかる。ラストシーンは、鮮やか。

実はこの作品、作者の方のtweetで存在を知った。一読して驚いた。自分の好みのど真ん中の真ん真ん中である。タイトルや、表紙の絵や、Amazonのキャッチコピーには特に惹かれなかったから、twitterの出会いがなければ知らないままだっただろう。

「数学教師もげきはじめの考察」

  • さわぐちけいすけ「数学教師もげきはじめの考察」

2023年8月11日刊。割と最近の本。

もげきはじめ(十一)という数学教師の話。いい年齢のオッサンだが伝統や建前や同調圧にとらわれず、柔軟な思考の持ち主。

断片的にいくつかをネットで目にした覚えがあるが、一冊にまとまったようで、ようやく通して読むことができた。

理屈で考えればそうなるだろう、しかし、なかなかそうはできないよ、という行動をさっと取るところが鮮やかだが、本人にその自覚がないのがミソ。

もう少し絵を丁寧に描いてくれたらはるかに読みやすくなると思うのだが、それができない理由があるのだろうか。



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「理想のおとなりさん」1

2023年9月14日刊。割と最近の本。

ラノベ作家の古橋湊太(ふるはし・こうた)は35歳独身。昭和なアパートに一人暮らし。ある日隣に越してきた音成奏(おとなり・かな)は、古橋が学生時代に家庭教師をした生徒だった。

実は奏は古橋にとっての理想の女性。また古橋は奏の初恋の相手で、その思いを今日まで抱き続けて来たのだ。が、お互いに、相手は「生徒-教師」という関係性の中で親しいのであり、それ以上の気持ちを持っているわけではないと思い込み、現在の関係を壊さぬため、気持ちを伝えようとしない。

それほど若いとはいえない年齢ながら高校生よりもピュアな二人。尊過ぎて死ぬ。



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「ジャヒー様はくじけない!」1

2018年2月22日刊。

たまにネットで話題になっているのを見ることがある。それなりの人気作品らしい。

魔王の側近にして魔界No.2のジャヒー様は、魔界中の誰もが恐れ、敬う存在だった。が、ある日一人の魔法少女が現われ、魔石を砕かれてしまった。これはすなわち魔王の死、魔界の崩壊を意味する。かろうじて人間界へ逃げ込んだジャヒーは、命は助かったものの、魔力を失い少女の姿となり、築40年のアパートの四畳半一間で、夕飯はもやしオンリーという生活を送るはめになる……

魔石を集めて魔界の復興を願うジャヒーだが……

というコメディ。魔界のジャヒーは高慢であったが、少女姿のジャヒーはなんだかとてもかわいい。同じく魔界から逃げ出したドゥルジと出会う。かつてはジャヒーの奴隷であったドゥルジは、既に魔石を何個か見つけていて、ジャヒーよりずっといい暮らしをしていた。が、かつての奴隷に頭を下げて人間界での生き方や魔石の見つけ方を乞う気になれない」ジャヒーは、必死で体面を保つ……ところもかわいい。

最新刊は10巻。



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「哀シャドー」2

  • 原作・工藤かずや、作画・平野仁「哀シャドー」2(グループ・ゼロ)

2019年12月26日kindle版刊。

偽証した人物を拷問にかけ、「500万円で頼まれた」ことを白状させたが、依頼した人物は不明だという。その人物を解放し、興信所に彼の行方を追わせる。案の定、その人物は偽証を依頼した男に連絡を取り、300万円と引き換えに冴子の情報を流す。それを見ていた興信所は後をつけるがあっさり見つかり、命と引き換えに冴子を騙すことに加担させられる。偽証した人物は事故で死ぬ。

偽証した人物が殺されたと直感した冴子は興信所へ連絡を取るが、逆に誘拐されてしまう。そこで加虐されながら正体を吐くよう迫られる。暴力に耐え、一瞬の隙をついて彼らを殺し、逃げ出すが……

非常にサスペンスあふれる展開になってきた。冴子のボスのGが、冴子を殺人犯に仕立てたのかと思ったが、彼女に罪を背負わせたのは別組織らしい。それとも最終的にはつながっているのか?



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「哀シャドー」1

  • 原作・工藤かずや、作画・平野仁「哀シャドー」1(グループ・ゼロ)

2019年12月26日刊。もともとはリイド社SPコミックス、1985年5月5日刊。平野仁のもっとも脂の乗り切った時期の作品と思われる。

諸橋悦子は殺人事件を犯したとして死刑判決を受けた。本人はやっていない、冤罪だと主張したが、彼女が犯人だとする証拠がたくさんあり、その主張は聞き入れられなかった。死刑は執行されたが、死ぬ前に助け出され、「言うことを聞くなら生かしてやる、息子にも会わせてやる、厭ならこのまま死刑を続行する」と迫られ、引き受ける。その命令とは組織の指定する人物を殺すこと――。

顔・名前・戸籍すべてを変え、桐原冴子に生まれ変わった主人公は、組織の殺し屋となった。組織の指定する人物は法で裁けない重大な犯罪人だということだが、冴子にそれを確かめるすべはない……。

という設定。判決が下ってから執行までが早過ぎやしないか、疑問に感じないでもないが、そこは気にしないことにする。人を殺すには相応の「技術」が必要だが、諸橋悦子にどういう「素質」があったのか、組織が目を付けた理由がよくわからないが、若い女だから助けて言うことを聞かせよう、失敗して殺されたらそれまで、くらいの判断なのかも知れない。

桐原冴子が美人で色気がある。平野仁の真骨頂だ。「メロス」のポーラを彷彿させる。

連作短編のていだが、各話がきちんと終わっていないのが気になる。第一話は、アメリカ大使館が接待するほどのVIPを殺し、その部下も手にかけたが、死体の始末もせず、どうなったのか、何人もの敵に追いかけられたが、逃げ切れたのか。冴子の組織はアメリカ大使館とも通じているようだから、そのあたりは組織の力でうまくやったのかも知れないが、そこは描かれない。ちょっと尻切れトンボな印象だ。

組織は当初は冴子を信用せず、24時間監視下に置くが、精神衛生維持のため、少しずつ自由時間を与える。最初は子どもに会いに行くが、その後は自分を巧妙に殺人犯に仕立てた「謎」を解こうとする。ついに、「諸橋悦子から殺してくれと頼まれた」と偽証した人物の行方を突き止めた……

組織は何のために彼女を殺人犯に仕立てたのか。闇が深い。



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