- 平松伸二「リッキー台風(タイフーン)」1
週刊少年ジャンプ掲載作品(1980~1981年)。しかしkindle版は奥付がなく、出版社も発行日も不明。
時期でいうと「ドーベルマン刑事」と「ブラック・エンジェルズ」に挟まれた作品。他の作品とかなり芸風が異なること、連載は比較的短く終わったこと(単行本で全7巻)などから、忘れられた作品になっている感がある。僕自身「ジャイアント台風」を購入する時に、Amazonのお薦めに表示されて思い出したが、それまでこの作品の存在はずっと忘れていた。が、僕は平松伸二の作品の中では一番の傑作だと思っている。雑誌連載時には夢中になって読み、これは名作だと思ったが、単行本は買わなかった(買えなかった)。40年たって、大人買い。
日系アメリカ人であるリッキー大和(高校一年生)が日本で行なわれる日米対抗アマレス選手権大会に出場するため、来日するところから話が始まる。なぜか付き添いはルー・テーズ。飛行機は全日本プロレスリングが招聘した巨躯のレスラー・ゴリラーマンが一緒だった。ゴリラーマンは空港にて満員のバス三台を曳いて動かすというデモンストレーションを披露。が、リッキーはゴリラーマンに喧嘩を売り、互角に戦う。
アマレス選手権では、全米チャンピオンのリッキーは同じ階級では勝負にならないからと、ヘビー級の選手と試合を希望し、高校チャンピオンをわずか10秒でフォールする。つまり、リッキー自身は正確な階級は不明だが、中量級の選手である。
日本のプロレスの父・力王岩の命日イベントでは、ゴリラーマンが一般女性を襲うハプニングが起き、試合を見に行っていたリッキーが彼女を救出(ほかのレスラーは何をしていたんだ?)。実はリッキーは力王岩の忘れ形見であり、その血と才能に目を付けたルー・テーズが、NWA・AWA・WWFの三大タイトル統一の夢を託していることがわかる。
その後は帰国する、はずが、空港でリッキーが急に日本に残って留学すると言い出す。ゴリラーマンから救った女に一目惚れし、彼女も高校一年生だったことから、同じ高校に通いたいと思ったのだ。
その空港ではカール・ゴッチが弟子ナルシスを連れて日本に来るところに遭遇。日本の高校に留学させる予定だという。それを聞いたテーズは、同年代のライバルがいた方がいいだろうと、リッキーを馬場に預け、日本での留学を認める……
あちこちにギャグが散りばめられている(が、笑えない)、中途半端なお色気がある、主人公が女性に弱く、しょっちゅうにやけていて顔にしまりがない、というのは評価が分かれるところであろう。
ルー・テーズ、カール・ゴッチ、ジャイアント馬場、アントニオ猪木は実名で登場するが、力王岩は力道山ではない。生涯独身だった、などと経歴を変えてあるせいか? ゴリラーマンのモデルはグレート・アントニオであろう。満員のバスを引っ張るデモンストレーションは「タイガーマスク」にも登場する、手垢のついたエピソード。
それにしても、本物のプロレスラーでも始末に困るゴリラーマンを、小兵の(高校レスリング界でも中量級、プロレスラーと比べたらほんの小粒)リッキーが互角以上に渡り合うのはいくらなんでも不自然だが、そこは漫画だからか。まあグレート・アントニオは、パワーだけはあっても、プロレスの技を知らない、下手クソだったらしいが。
さて、物語は学園漫画になりそうなところで1巻は終わる。