鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「北斗の拳 世紀末ドラマ撮影伝」2(最新刊)

  • 倉尾宏「北斗の拳 世紀末ドラマ撮影伝」2(ゼノンコミックス)

2022年4月20日刊。もう新刊とはいえないが、最新刊ではある。

北斗の拳」の数あるスピンオフの中で最も面白いが、何が面白いのかというと、「北斗の拳」の破天荒な設定やストーリー展開を、比較的凡庸な設定から、さまざまな経緯を経てどんどんすごいことになっていく、その持っていき方がうまいのだ。

たとえば、シン役の役者とユリア役の役者が付き合っているという噂が流れ、清純イメージで売っている女優の事務所が降板を申し入れてきた。高い視聴率からシーズン2が決定しており、当然、ケンのほか、シン、ユリアは引き続き出演のはずだったが、不可能に。どのように降板させるか考えたあげく、身投げして死ぬことに。そして、シンもユリアのあとを追って投身する……とか。

美男美女がいなくなり、恋愛要素がなくなった点にプロデデューサーからお叱りを受け、レイとマミヤを登場させることにした……とか。

やむを得ぬ事情やハプニングをうまく辻褄を合わせて話に昇華させていった結果が、脚本から大幅に離脱した「北斗の拳」になったのだ、と。

実際の武論尊原哲夫による制作過程とはまるで異なるだろうが、現実の世界からスタートして、結果が見事に一致している点が面白くもあり、惚れ惚れする点でもある。

また、原作漫画の異常な点を敢えて指摘している箇所も随所にある。たとえばジャッカルが風呂に入っているシーン、監督が「水が貴重な世界で水を独り占めできる力のある人物」ということを示しているのだと説明する横で、バット(役の子)が「だからって酒場に風呂?」と突っ込んだり。

とにかく大笑いしたのだが、で、原作はどうだったっけ、と元の漫画を5巻くらいまで読み直してしまったのだが、本作を読んでしまうと、こういう話になったのはこういう裏事情があったからでは? などと思ってしまい、シリアスなシーンも笑いがこみあげてきてしまう。