鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「あだち勉物語」3

2022年8月12日刊。

あだち勉についての話はひと段落し、本巻は「ありま猛物語」の趣もあり。この転換はなかなかうまい。

最終話は、周囲の諸先輩方の反応が納得いかない。仕事が一区切りついて、古谷三敏先生がありまら若手を新宿に飲みに連れて行ってくれる。銀座のクラブというわけではないが、それなりにいい店なのだろう。そこで小学館の編集者とバッタリ会うと、編集者氏は、お前らこんなところで飲んでいていいのか、と説教を始めるのだ。他の若手は今ごろ必死になって机にかじりついているぞ。飲みたかったら自分の金で飲め、と。

みんながシュンとしてしまった時に、ありまが猛然と反論する。言い返された編集者は、あ、お前はこれで小学館のデビューが10年遅れたな、と言うも、ありまはさらに「出版社は小学館だけじゃない!」と言い放つのだ。

後日、古谷三敏先生からも、ほどほどに、と注意を受けるが、どうもこの編集者氏が言い触らして回ったようで、他の漫画家諸氏にもこの話が周知になると、みながありまを責める。この編集者は、君たちのためを思って忠告してくれたのに、言い返すとは何事だ、と。

あだち勉だけが、「よく言った! そのくらいの気持ちがなきゃダメだ」と褒め、あだち充は淡々と「見返してやりましょ」とつぶやく……という話なのだが、おかしくないか。

飲みに連れて来てくれたのは古谷三敏先生なのである。それなのに、こんなとこで飲んでんじゃねえよ、と叱るのは、古谷先生のメンツを潰す行為だと思うのだ。だから、ありまら古谷の弟子らは、先生の名誉を守るべきなのだ。いつも飲んでいるわけじゃない、大仕事が一区切りついたから、たまにはと先生が連れて来てくれたのだと。ここで引いてしまえば、それは先生が連れて来てくれたことが間違いだったということになってしまう。それでいいのか。

「飲みたかったら自分の金で飲め」と言っていたということは、誰かの(この場合は古谷先生の)奢りであることはわかっていたわけである。もしこの編集者が真に若者のためを思うなら、彼らにではなく古谷先生に言うべきなのだ。タダ酒の味は覚えさせない方がいいですよ、と。

この編集者はただの説教癖があっただけだ。権力のある人間が若者を前に説教を垂れるのは気持ちいいもんなあ。そんな人をのさばらせておくことはないよ。



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