鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

小説

学ばない探偵たちの学園

東川篤哉「学ばない探偵たちの学園」(光文社文庫) これはイマイチだったかな。学校の中で人が殺されたら、もっとショックを受けると思うのだ。鵜飼杜夫のようなスレッカラシが人が死んでも気にも留めないというのはわかるが、教師や高校生が冷静に謎を解こ…

中途半端な密室

東川篤哉「中途半端な密室」(光文社文庫) 東川篤哉の初期短編集。正確には、プロになるきっかけをつかんだ作品だから、最後のアマチュア時代の作品と呼ぶべきか。短編集だが、冒頭の表題作にいきなりやられた。短いが、緻密な推理、意外な結末、しかも荒唐…

交換殺人に向かない夜

東川篤哉「交換殺人に向かない夜」(光文社文庫) 見事に騙された! 昔は叙述トリックは好きじゃなかったけど今は気にならない。東川篤哉は「密室の鍵貸します」「密室に向かって撃て!」「完全犯罪に猫は何匹必要か?」と読んできて、格別素晴らしいとは思…

「マンボウ最後の名推理」

北杜夫、「マンボウ最後の名推理」(実業之日本社文庫) 晩年の作品なので、あまり期待しないで購入したのだが、変な言い方だが、案外面白かった。単行本は2003年1月刊。短編が三編収録されているが、うち一編は1992年か1993年に書いたもの。他の二遍も同時…

「わらしべ長者」

木下順二、「わらしべ長者」(岩波少年文庫) 対象年齢は小学校5〜6年生となっているが、小学生にはちょっと厳しいのではないか。いや、どうだろう。自分が小学生の時にはこのくらい読んでいたのかな……?木下順二の著書をこうして平成の世に読めるということ…

「日本のこわい話」

須知徳平(編著)、「民話と伝説 呪いの巻物3 日本のこわい話」(偕成社) 対象年齢は小学校中学年以上となっており、文字も大きく文章も短めなのでさくさく読める。紹介されている話は、大半はどこかで聞いたことのある話だが、ストーリーの展開や結末をき…

「日本のおばけ話」

神戸淳吉(編著)、「民話と伝説 呪いの巻物1 日本のおばけ話」(偕成社) Enjoy Simple Englishの中のJapanese Folkloreに出て来る話、シチュエーションはなんとなく知っていても結局どういう話か知らないものが多いため、借りてみた。雪女の話は「雪むすめ…

「純平、考え直せ」

奥田英朗 「純平、考え直せ」(光文社文庫、お36-3) チンピラ純平は、親分に命じられて鉄砲玉を務めることになった。決行の日まで3日間……街で拾った女の子に殺しの話をすると、彼女がすぐにネットの掲示板にそのことをアップ。スレには多くのコメントが寄せ…

「謎解きはディナーのあとで2」

東川篤哉 「謎解きはディナーのあとで2」(小学館文庫、ひ11 2) 連作短編ミステリ。2が文庫化されていた(のに気づいた)ので購入。1を読んだ時はドラマ化される前だったが、今回は映画を観てしまったからもういけない。風祭刑事は椎名桔平の顔しか思い浮か…

「ifの幕末」

清水義範「ifの幕末」(集英社文庫 し22 23) 幕末に鎖国をやめて開国する際、不平等条約を結ばず、フェアな契約のもと、前向きに開国していたらどうなったか、という設定の歴史の本。途中まではほぼ史実通りなので、引き込まれる。ただし、不平等条約がなけ…

「FOR RENT ―空室あり―」

森谷明子「FOR RENT ―空室あり―」(幻冬舎文庫 も-15-1) 衝動買いはなるべくしないようにしているのだが、目についてしまい、どうしても読みたくなって買ってきてしまった。作者も全く覚えがない人なのに……最初に大きな謎が提示されて、主人公がそれを解こ…

映画の余韻に浸る「清須会議」

三谷幸喜「清須会議」(幻冬舎文庫 み1-5) 映画はオリジナル脚本家と思っていたが、それに先立つ小説があったようだ。三谷氏が「小説と映画はアプローチを変えているので、両方楽しめます」と言っていたため、試しにと買って読んでみた。滝川一益を待ってい…

小夜しぐれ

高田郁「小夜しぐれ みをつくし料理帖」(ハルキ文庫 時代小説文庫 た19-5) 第一話、種市の別れた妻登場。おつるの死の真相判明。 第二話、吉原の花見の宴の料理を澪が担当することに。 第三話、伊勢屋のじゃじゃ馬娘・美緒は、源斉を一途に思っていたが、…

今朝の春

高田郁「今朝の春 みをつくし料理帖」(ハルキ文庫 時代小説文庫 た19-4) 第一話、澪が美緒に料理を教えるが……。澪の横恋慕の相手・小松原の母登場 第二話、戯作者・清右衛門、あさひ大夫の謎を探る 第三話、伊佐三(おりょうの夫・太一の父)に浮気疑惑が …

花散らしの雨

高田郁「花散らしの雨 みをつくし料理帖」(ハルキ文庫 時代小説文庫 た19-2) 第一話でふき登場。登龍楼からスパイを強要されるがバレて澪に取り込まれる。第二話、相模屋の留吉登場。上質の味醂。あさひ大夫が大けがを負う。第三話、つる屋に悪さを仕掛け…

八朔の雪

高田郁「八朔の雪 みをづくし料理帖」(ハルキ文庫 時代小説文庫 た19-1) みをづくし料理帖シリーズ第一作。手許にあったので何気なく読み始めたのだが、作者名も題名も記憶にない、初めて読む作品だと思ったのに、中身はあちこちデジャブ。八朔の雪―みをつ…

設定の勝利「堀アンナの事件簿」

鯨統一郎、「堀アンナの事件簿」(PHP文芸文庫) やはり鯨統一郎は読むべきだと再認識し、新刊を入手。これは玉石混交の石の方か。いや、鯨統一郎節が炸裂するバカミス、と考えれば、それなりの内容でもある。探偵事務所に勤める堀アンナが、当初はアルバイ…

設定の勝利「山内一豊の妻の推理帖」

鯨統一郎、「山内一豊の妻の推理帖」(光文社文庫) 最近は、なるべく本は買わないようにしよう、と思っていたのだが、題名にやられた。鯨統一郎の作品は玉石混交のきらいがあるが、本作は珠玉の作品だ。戦場で目覚ましい活躍をしたわけでは必ずしもないのに…

ミステリーは面白い「大きな森の小さな密室」

小林泰三、「大きな森の小さな密室」(創元推理文庫) 最近は本を読む時間を確保するのも難しく、以前より読書量が落ちた。それでも面白そうな本を以前と同じペースで買っていると、当然、読めない本が増える。そもそも豪邸に住んでいるわけではなく、本を置…

よくできた短編集「正月十一日、鏡殺し」

歌野晶午、「正月十一日、鏡殺し」(講談社文庫) 正確には書名に「新装版」がつく。講談社文庫の歌野晶午作品は、ずいぶん前に順に絶版になり、「絶版かよ!」と思ったら、しばらく前から新装版が出始めた。新装版は嫌いなので、絶版になる前に揃えようと思…

毎度ばかばかしいお話で「幕末時そば伝」

鯨統一郎、「幕末時そば伝」(実業之日本社文庫) 落語である。「粗忽長屋」「千早振る」などが文章になっている。設定がちょっといじってあって、導入部分を膨らませてはいるが、途中からサゲ(落ち)はほぼ元の落語そのまんまである。いや、落語として聞い…

衝撃作「彼女がその名を知らない鳥たち」

沼田まほかる、「彼女がその名を知らない鳥たち」(幻冬舎文庫) 一言でいえば、衝撃的な作品だった。面白かったとか悲しかったとかいう以前に、ハンマーで胸の奥をぶっ叩かれたような。すごく感動した、ということは時々あるが、衝撃を受けることは珍しい。…

不思議な連作短編集「田村はまだか」

朝倉かすみ、「田村はまだか」(光文社文庫) 短編集。第一話が表題作で、第二話は別の話かと思った。登場人物に覚えがなく、シチュエーションも全く別だったからだが、後半でつながることがわかった。そうわかってみると、これは連作短編集なのだった。同窓…

往年のみずみずしさがよみがえる「神々の消えた土地」

北杜夫、「神々の消えた土地」(新潮文庫) 亡くなられたことで最近北杜夫の本が書店で目につくようになった(少し前まで、よほど大きな書店でないと「楡家の人びと」すら見かけなかった)。あちこちで見た北杜夫の追悼文では「ユーモア文学」に焦点を当て称…

なにがこんなに迫ってくるのか「猫鳴り」

沼田まほかる、「猫鳴り」(双葉文庫) 「九月が永遠に続けば」で衝撃のデビューを果たした沼田まほかるの第三作。本作はミステリーでもサスペンスでもない。三篇から成る連作短編集で、主人公は猫。時間差をおいて猫の生涯を追いかける仕掛けになっている。…

ブンガク的でよくわからなかった「乳と卵」

川上未映子、「乳と卵」(文春文庫) 乳と卵(らん) (文春文庫)作者: 川上未映子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2010/09/03メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 50回この商品を含むブログ (68件) を見る川上未映子の作品は芥川賞を取った時から気になってい…

バブリーな恋愛短編集

甘粕りり子、「長い失恋」(講談社文庫) すべての恋愛は、長い時間をかけて失恋に向かっている。ホテルを舞台に、男と女の絡み合った愛と欲望を描く10編。読み始めたのはいつだったか、ずいぶん以前だったのだが、ようやく読了した。あまり甘酸っぱい小説は…

奇妙な味わいの連作ミステリー

蒼井上鷹、「堂場警部補の挑戦」(創元推理文庫) なんとも奇妙な作品である。蒼井上鷹といえば奇妙に決まっている、と言ってしまえばそれまでだが、ここではダールに対する評のようなポジティブなものではなく、他に書きようがなくて書いている。何とも評価…

空を飛ぶことを夢見た少年少女

加納朋子、「少年少女飛行倶楽部」(文春文庫) 加納朋子だがミステリーではない。中学生が飛行倶楽部なる怪しげなクラブを立ち上げ、紆余曲折を経てついに飛行を実践するまで。初飛行のあとにもうひと波乱あるけど。絵に描いたような青春小説で、こういう話…

ヘビーなヒューマンドラマ

沼田まほかる、「九月が永遠に続けば」(新潮文庫) どこの書店に行っても目立つ所に平積みになっている上、よく行く書店ではPOPまで出ていた。作者の名前が発音しにくいし、書名は平凡だが、そんなに面白いのかと気にはなっていた。正直に言うと、POPには「…